※本稿は、広岡達朗『巨人が勝てない7つの理由』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
毎年日本一になるのが当たり前というのが巨人
私も野球一筋の人生で90歳になった。現役時代が巨人だったので、西武の監督を退任してから40年近くたったいまでも「巨人ファンです」という手紙がたくさん来る。
私が現役時代を過ごした巨人では、日本シリーズに勝つことが目的だった。毎年日本一になるのが当たり前というのが巨人であり、そういう教育を受けてきた。
だからリーグ優勝して日本シリーズ出場が決まると、初代オーナーで日本プロ野球の創立者である正力松太郎さんは日本テレビの迎賓館に監督・選手を集めてペナントレースの慰労をしたが、日本シリーズで日本一にならなければ「よくやった」とはいわなかった。これが、日本初のプロ野球チーム・巨人軍の伝統だった。
伝統とは、そのチームを作った人が「野球はこうあるべきだ、チームはこうあるべきだ」と考えたことを守り、伝えていくことである。私の意見が巨人に厳しいのは、それが野球の本質であり、巨人のあるべき姿だからだ。
ところがいまの選手たちは、いま流の生活をしているから堕落している。人工芝でエラーしたり、横に来たゴロを捕ったら回転して投げてみたりする。基本通り、足を運んで投げればいいのに、回転して投げるから目標の一塁手が揺れて悪送球になる。
ファンは華やかなファインプレーを喜ぶだろうが、プロは難しいプレーもやって当たり前の世界。「いいプレーをしたからほめてくれ」と思うのは大間違いだ。
巨人の選手は野球界の見本であらねばならない
正力さんは「巨人軍は球界の盟主たれ」と言い遺している。遠征のときは必ず背広にネクタイ姿のマナーも、他球団の手本になった。
ところがいまは、Tシャツで練習したり、帽子をずらしてかぶったり、グラウンドで談笑する姿が多い。なかでも2019年にオリックスから移籍した中島宏之などは、出塁した一塁走者といつも笑顔でしゃべっている。あんなのは巨人の選手とはいえない。
いまの巨人は、よそで活躍した選手を金で集めて勝っている。生え抜きのレギュラーは坂本勇人と岡本和真くらいで、あとの生え抜きはどこでも守る便利屋のユーティリティプレーヤーと代打・代走である。これでは正力さんが作った巨人軍ではない。私が巨人に厳しいのは、OBとして情けないからだ。
いまでも他球団は、巨人のまねをする。キャンプも、「2番強打者論」も、左打者に左投手をつぎ込むマシンガン継投も、投げ終わって一塁側を向く変則投法も、巨人が大リーグの猿まねをすればすぐ球界に広がってゆく。そして深刻なのは、いいことも悪いことも、学生野球から少年野球の子どもたちまでプロ野球のまねをすることだ。
巨人軍はかつて、球界の盟主といわれた。盟主とは、プロ野球から野球少年まで、野球界すべての手本になることである。人気と資金力に任せて目の前の勝利を追うのではなく、「正しい野球」を取り戻してもらいたい。