坂本勇人への評価が低いたった一つの理由

巨人のチームリーダー・坂本もプロ入り16年目を迎え、今年34歳になる。私は若いころの坂本を指導したことがある。原が巨人で2度目の監督のときだ。

当時の坂本は謙虚で素質のある選手だったが、私から見ると、その後少しもうまくなっていない。

いまの坂本はファンに「俺はうまいだろう」と見せている。捕ったら真剣に投げればいいのに、ヒョイヒョイと投げる。ゴロを捕るときも片手でヒョイと捕ってクルッと回って投げたりする。

ファンからはいかにも軽快なプレーに見えるだろうが、あれはプロがやるべきことではない。そんなことをせず、三遊間でも二遊間でも素早く回り込んで正面で捕り、基本に忠実にやればいい。それが巨人の野球だ。

軽快なプレーをファンが喜ぶのはいい。だが本人が「プロとして巨人にお世話になっている以上、こんなプレーは当たり前」という気持ちになれば、もっといい選手になる。

坂本はこれまでに多くのタイトルを獲得した。高校卒業後ドラフト1位で入団し、MVPをはじめ首位打者、最多安打、最高出塁率のタイトルとベストナイン賞7度、ゴールデングラブ賞5度。2020年には通算2000本安打も達成した。

しかし私の坂本に対する評価が厳しいのは、遊撃手として基本ができていないからだ。

人間は楽をすれば手を抜いて限りなく楽をする

「打球が来る前にしっかり準備ができているかどうか」を見ればわかる。内野手は、どんな打球が来てもいいように構えていれば本物だ。

赤い芝生のフィールドにボールをフィールディングする野球の内野手
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ところがいま、坂本に限らず、そういう構えができている選手はひとりもいない。投手が投げる直前まで立っていたり、ひざに両手を置いて、「球が来てから捕ればいいんでしょ?」というのはいま流の人工芝野球である。

人工芝がなかった昔の選手は、グラウンドの土を見てイレギュラーするかどうかを判断した。いまは人工芝時代だからイレギュラーバウンドはほとんどないが、人間は本来、どんな場合でも条件によって反応できる能力を持っていることを忘れてはならない。つまり「人工芝だからイレギュラーバウンドはない」と安心して、捕球の準備を怠ってはいけないということだ。

人間は楽をすれば手を抜いて限りなく楽をし、逆に厳しい環境ではそれに対応できる人間になれる。

坂本も捕れる球は一生懸命捕るが、捕れないと思ったら追いかける格好だけでヒットにするから記録上のエラーは少ない。

なぜ簡単にあきらめず、球際まで追いかけて正面で捕る努力をしないのか。そうすれば守備範囲はもっと広くなる。逆に手を抜いて三遊間を逆シングルで楽にさばく習慣がつけば、知らない間に守備範囲は狭くなる。