アニメやマンガで見た「日本の風景」がやってきた感動
もう一つの背景である「多民族が共存するマレーシアの社会」についても触れておこう。
冒頭に触れた女性を含むマレー系の人々は、マレー半島に住むいわば先住民といえる人々で「ブミプトラ(マレー語で「土地の子」の意味)」とも呼ばれる。マレーシアではこのマレー系が7割弱を占める。日本と文化的親和性が高いと感じている中華系華僑が約3割弱、そして残りの1割弱をインド系の人々が占める。
マレーシア人は日本のアニメやマンガ、オンラインゲームに普段から接しているし、日本料理レストランもファストフード系から超高級レストランまでなんでも揃っている。そもそも、3つの民族が共存して暮らしているという背景があるため、「他の文化の受け入れ土壌が柔らかく、浸透が早い」といった特徴がある。
今回の盆踊り大会のように、日ごろ慣れ親しんでいる日本のアニメやゲームの世界が、自分の目の前に展開される光景は圧巻だ。話を聞いた参加者からは、「ニッポンの景色やおいしい食べ物」が自分の街にやってきたことに感動している様子が伝わってきた。
デリケートな「宗教問題」の垣根を越えた
盆踊りが政府を巻き込む「宗教論争」に発展したように、多民族国家にとって宗教はデリケートな問題だ。想像してみてほしいのだが、例えば自分の文化圏とは異なる2つの文化(自分がマレー系なら、中華系やインド文化)のうち、どちらかのイベントだったらこんなに気持ちよく参加できないだろう。
みんなが子供のころから憧れてきた日本のものだからこそ、宗教の垣根なしにより楽しめたというのが本音だったのではないだろうか。今回の盆踊り大会の告知ポスターも、3つの民族の共存を意識したデザインが採用された。
5万人の盆踊り大会を通じて見えてきたものは、「マレーシアの人々は、民族・宗教に関係なく、日本のコト・モノをこよなく愛している」ということに尽きる。5万人もの人々が日本のイベント」を開催前から心待ちにし、そこを訪れた事実はとても大きい。
日本は外国人の入国にいまだに厳しい水準を設けているが、これほどまでに日本に熱狂する人々が海外にいることを忘れてはならない。こうした「日本好き」な人々をいかにして“ホンモノの日本”に来てもらうか、その戦略をそろそろ真剣に議論する時ではないだろうか。