開催地の“王様”は政府に真っ向から反論
一方、宗教担当閣僚の発言の3日後、地元・スランゴール州のスルタン、シャラフディン・イドリス・シャー州王は、「盆踊り大会は実施して良い」とする、国の方針とはまったく逆の方針を打ち出した。国王が国の元首となっているマレーシアだが、各州(全部ではない)にもスルタン(州王)と呼ばれる州の君主がいる。
州王は、「数年前に盆踊り大会に参加したが、その際、盆踊りはイスラムの教えを汚すようなことはなく、日系企業社員らを対象とした単なる夏祭りのような社会的なイベントだった」と政府の判断に真っ向から反論。地元の宗教局に対し「盆踊りへの妨害行為は一切禁じるとした通知を市民向けに行う」ように指示も出した。
一部の市民の間では盆踊り大会の名称を「日本文化祭」または「社会祭」と改称する提案も出た。しかしこうしたアイデアに対し、多くのマレーシア人から「改称すべきでない」と反発する声も上がった。それほどまでに、日本の盆踊りは現地の人々に定着している催しといっても良さそうだ。
このように、開催前から政府の発言や州王の「ご判断」が話題を集めたこともあり、マレーシアで盆踊り大会に対する注目が一気に高まった。どんなことをやっているのか、と興味本位で訪れた市民もいたりしたため、コロナ禍前には3万5000人規模だった参加者数が一気に5万人まで膨れ上がったわけだ。海外で行われている盆踊り大会の類いでは、文句なしで世界最大のスケールとなった。
日本の音頭に合わせてマレーシア人が舞う
当日は、開門前の午後4時半から会場外に参加者の長い列ができ、浴衣に身を包んだマレーシア人たちも多くみられた。会場中心には大きな櫓がそびえ立ち、日本の伝統的な音頭とクアラルンプール日本人学校の生徒たちの振り付けに合わせて来場者が見よう見まねで踊るといった様子だった。
午後7時15分に最初の踊りが始まると、参加者らのボルテージは一気に上昇。9時過ぎの終演まで、数多くのパフォーマンスが行われ、催しを楽しみにやってきた地元の人々と在住日本人たちが共に盆踊りの輪に加わる姿が見られた。
日本企業に勤めるマレーシア人男性は、今回はじめて家族と共に盆踊りに参加したという。「政府から『行くな』と言われた時はショックだったが、来てみたら日本の子供たちが踊る姿を見て大いに感動した。こんなに楽しい体験は、日本企業の皆さんがマレーシアでしっかりと根を張って活動しているからこそできること。宗教とか政治とかといった問題を抜きに、今後もずっと続いてほしい」と話してくれた。
現地の日本人駐在員男性は、「政治問題化したことが日本でも話題になったと聞き、開催できるのかどうか本当に心配した。無事に終わってよかった」とほっとした様子。日本人と一緒に働く地元スタッフが、こうしたイベントを通じて「ニッポン」を知ることで、社内のコミュニケーションの円滑化にもつながりそうだ。