小林は、21世紀をこう分析する。
「自動車や電機が牽引した20世紀は物理の時代だが、21世紀は化学の時代だ」
かつて「環境経営」の概念が日本に紹介されたとき、経済界の反応は冷ややかで、「どうせ儲けにはならない」というものだった。ところが、今や“環境”の理念なしには経営は成り立たなくなっている。今後、「KAITEKI」が、世界の共通言語として認知されたとすれば、ケミカルHDの業態は、今とはまったく違った形に変貌しているに違いない。
小林と二人三脚で、子会社の立て直しに奔走してきた奥川隆生だが、三菱化学の執行役員として、同社の将来のメシの種となる有機の太陽電池、有機半導体など新規事業を任されている。
同時に奥川は、ケミカルHDのグループ基盤強化室長も兼任するが、小林がソニーやパイオニアなどの他社から“一本釣り”してきた一騎当千の研究者を束ねる役目でもある。
「“猛獣使い”として頑張っています」
奥川は笑ってみせるが、小林から、「新しいものはできたか、設計図はどうだ」と言葉を投げかけられている。
奥川自身、小林と化学メディアを立て直した経験を、再び今の現場に当てはめようとしている。
「外に出て悩み、苦しみ、首の皮一枚になった奴じゃないと。危機を乗り切るには、そうしたところで生き残った奴じゃないと、最後は突破できないんですよ」
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時
(川本聖哉=撮影)