人の便や尿とは違う、独特の刺激臭が鼻をつく

私は最初、共用廊下で待機していた。

この日多かった物は、“鉄もの”だった。男性が仕事で使っていた工具系のものが玄関付近に大量に積まれている。

「お、お、重い……」

どれも見た目は40センチ四方の塊だが、それを持ち上げた途端、作業員の栗原翼さんがうめいた。栗原さんは10代から同社で働いていて作業には慣れている上に、体格のいい22歳の若者。玄関にあった鉄物を抱え、共用廊下を歩き、階段を下りて、トラックに積む。それを何往復かするうちに彼の顔は真っ赤になり、ハアハアと息が切れていた。「大丈夫ですか」と声をかけると、「どれも、40~50キロは、ありそう、です」と途切れ途切れに応える。

玄関前
撮影=笹井恵里子
玄関前

私が重いものを運ぶと動作がもたつき、かえって周囲に迷惑をかけるので、チーフの溝上さんに許可をもらって室内に入った。

中はねずみの糞だらけだった。棚の角、ダンボールの中の衣類の上、床に至るまでねずみの糞がびっしり。人の便や尿とは違う、独特の刺激臭が鼻をつく。

仏壇の中にも物が詰まっていた

「これは、ねずみのおしっこの匂いですね」

溝上さんが教えてくれる。ねずみの尿には病原菌が多く含まれているという。

その時、一人の作業員が身を引いた。物と私たちの隙間をぴゅーっとねずみが駆けていく。

「うわっ」

突然のことだったので、ほかの作業員も次々にのけぞる。ねずみは、あっという間に外に飛び出していった。

仏壇の中にもゴミがあふれていた。
仏壇の中にもゴミがあふれていた。(撮影=笹井恵里子)

台所周辺の下方に埋もれている袋類に、かじられた形跡があった。菓子類はともかく、醤油やタレなどの液体類の袋までかじられている。当然ながらそのあたりはびしょびしょだ。台所のど真ん中の床には、20年前に賞味期限の切れた魚の缶詰が張り付いている。男性作業員が手をかけてもビクともせず、荷物を運び出すたびに皆がそれにつまずく。

台所から奥へ、6畳ほどの部屋に入り、私は処分作業を続けた。窓周辺がすべて物で埋まっているため、換気はできない。もちろんエアコンもない。汗がダラダラと頬を伝うがぬぐうこともできない。ふと視線を奥にやると、部屋の隅に仏壇がある。仏壇の周囲も、その中にも物が詰まっていた。