近年、耳にすることが増えた「直美<ちょくび>」という言葉。全国的にも貴重な「大学病院の美容皮膚科チーム」を立ち上げた皮膚科医の大塚篤司さんは「美容医療の現状を踏まえて十分な情報を得て、良い医者を『見極める力』を身につけてほしい」という――。

※本稿は、大塚篤司『大学病院の美容皮膚科医が教える 最新医学でわかったシミ・シワの「消し方」』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

患者の顎に注射をする美容師
写真=iStock.com/Aleksandr Rybalko
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エビデンスを蓄積する時間がない美容医療

美容医療は急速に身近なものになりました。かつては一部の人だけのものだった美容施術が、今では誰もが手軽にアプローチできる手段となっています。SNSを開けば、美容クリニックの広告や施術体験談があふれ、「美しくなりたい」という願いを叶える選択肢は無限に広がっているように見えます。しかし、この状況には大きな落とし穴があります。それは「エビデンス(科学的根拠)」の問題です。

病気の治療では、新しい薬や治療法が世に出るまでに、厳格な臨床試験を経て、その効果と安全性が検証されます。学会でガイドラインが作られ、医師はそれに基づいて治療を行います。一方、美容医療の世界では、このような仕組みが十分に機能していないのが現状です。

なぜでしょうか。それは、美容に関する技術や機器の発展のスピードがあまりにも速く、一つ一つの施術について十分なエビデンスを蓄積する時間がないからです。新しいレーザー機器が登場したかと思えば、すぐに次世代機が開発される。話題の美容成分が注目を集めたと思ったら、また新しい成分がもてはやされる。このスピード感の中で、何が本当に効果的で安全なのかを見極めることは、専門家でも容易ではありません。

初期臨床研修を終えたばかりの「直美」

その結果、美容医療は「職人技」の世界になりがちです。十分な検証を経ていない施術が「最新」「話題」という言葉だけで広まり、思わぬトラブルを引き起こすケースも後を絶ちません。

私は、美容医療においてエビデンスが不十分な方法を完全に否定するつもりはありません。医学の進歩は常に試行錯誤の連続によるものであり、新しい可能性を探ることも重要です。しかし、どんな施術にもリスクは存在します。大きな副作用や有害事象の可能性については、事前に十分な情報を得て、納得した上で選択すべきです。

また近年、美容医療の分野で「直美ちょくび」という言葉を耳にする機会が増えています。これは、大学での医学部教育と2年間の初期臨床研修を終えたばかりの医師が、皮膚科や形成外科といった一般の保険診療科でさらなる研鑽けんさんを積むことなく、直接、自由診療が中心の美容外科や美容皮膚科クリニックに就職するケースを指す俗称です。