学校でも社会でも、意味不明なルールに出合うことは少なくない。なぜそのようなルールが生まれるのか。人気エッセイストであり、ハーフでもあるサンドラ・ヘフェリンさんは「例えば、子供の混浴制限を年齢でなく、身長でする温泉がありますが、背の高い異性の子供がいて『不愉快に感じる』というのは、まわりの大人の都合です。おかしなルールの背景には間違った前提や思い込みがある」という――。

※本稿は、サンドラ・ヘフェリン『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)の一部を再編集したものです。

記述されたルールとチョーク ボード
写真=iStock.com/roberthyrons
※写真はイメージです

男児が女湯に入っていいかが「身長」で決まるおかしさ

先日、子供を持つ知人が「このあいだうちの子(男の子)と同い年の子供を持つママ友と4人で温泉に行ったら、背が高いうちの子だけ温泉に入れなかったの」と話していました。

彼女が行った温泉では、男児が女湯に入る際、年齢ではなく「身長」で区切っているとのこと。そのため彼女とママ友の息子さんはどちらも同じ年齢であるにもかかわらず、背の高い彼女の息子さんだけ女湯に入れなかったそうです。

私に子供はいませんが、温泉が好きでよく通っています。そこで先日、よく行く温泉のルールをチェックしてみました。すると、今まで気づかなかったのですが、女湯の前に「誠に申し訳ございませんが、身長120センチ以上のお子様の混浴はご遠慮ください」という注意書きがありました。

私が暮らす東京都の条例では「7歳以上の男女を混浴させないこと」としていますが、浴場によっては年齢のほかに110センチや120センチなど身長に制限を設けているところが少なくありません。

同じ年齢なのに、背の低い男児は母親と一緒に女湯に入ることができ、背が高い男児はできない、というのはある種の問題をはらんでいるように思います。

というのも、背の高い異性の子供がいて「不愉快に感じる」というのは、言ってみればまわりの大人の都合だからです。

背が高いからといって、しっかりしているわけではない

日本では背が高い子供に対して「性格も大人びている」と考えがちです。

自分の話で恐縮ですが、私は2歳だった頃、母と一緒に日本に一時帰国しました。母によると、当時2歳にしてすでに日本の4歳児ぐらいの身長があったそうです。

でもなにせ2歳ですから、母親に抱っこしてもらうのが好きないわゆる甘えん坊でした。ところが背が高くて幼稚園児に見えることから、母は周囲から「子供がそんなに大きいのに、まだ(歩かせないで)抱っこしているの?」「子供がそんなに大きいのに、まだ一人でできないの?」といったことをひんぱんに言われたそうです。身長のわりにあまりに赤ちゃんぽいのがミスマッチに映ったのか、遠回しに「発育が遅れているのでは?」というようなことを言う親戚もいたとのことです。

背の高さを一つの指針にすることは、日本では昔からわりと当たり前に行われてきました。けれど、ドイツを含むヨーロッパで、身長を基準にするのはあまり見られない考え方です。

子供の背が高いからといって「しっかりしている」わけではありません。ところが子供を見た目、つまりは身長で判断すると、「それぐらい背が高ければ、これぐらいのことはできるはず」という考えにつながってしまいます。この点については今一度考え直してみてもいいかもしれません。