吐き気や下痢も改善し、食欲も出てきた

後日、日々同じ時間空間を共にする、同僚医師など身近な人々にだけ、検査結果、ステージ4であったということ、抗がん剤治療は選択しないこと、今後どうするかは、少し時間をかけて考えたいことなどを伝えた。同僚医師たちは顔をこわばらせながら私の話に耳を傾けてくれたが、「分かりました。できる限り力になりたいと思います。無理をしないでください」と、言ってくれた。

その時点で、多くの人に自分の想いを詳しく伝えたり、説明するのが、億劫だった。伝えられた方も戸惑うだろうし、この現実の当事者は私自身なのだ。まずは、来し方行く末を自分だけで、じっくり、考えたかった。

だが、ステージ4の大腸がんに対する標準治療である抗がん剤治療を選択しないことにした私は、今後どうすれば良いのか、それが問題だった。

この時点で、24時間対応の在宅緩和ケアの仕事には、いつもと変わらぬペースで取り組めていた。

ゼローダの効果がなかったことが分かり8クール目は中止になったので、結果的に副作用であった、手足症候群や慢性的な吐き気や下痢、食欲低下も少しずつ改善し、体調は、通常に戻りつつあったからだ。

クリニックでは私より若い同僚医師たちが、より多く当番を引き受けてくれていたのだが、私もいつも通り当番をした。夜の飲み会も、いつもと変わらずお付き合いした。

とはいえ、このまま自然経過に任せていれば、やがて病状の進行による症状も出現してくる。抗がん剤治療の副作用から解放され、ようやく取り戻した日常もそう長くは続かないだろう。

病状が落ち着いているこの時期に、個人的なこと、ケアタウン小平チームのことなど、これからの具体的な方向性を決めたかったが、日々の現実に追われるままに、時間ばかりが過ぎていった。

「抗がん剤治療こそ最善」はあくまで医師からの視点

さて、ステージ4の固形がんと診断された時の、最優先課題とは何だろう。ステージ4と診断されれば、私もそうであったが、冷静ではいられない。どうして良いか分からない、いわばパニック状態のまま、治療医から提示される抗がん剤治療を開始してしまう患者さんも、少なくないだろう。

高齢の男性に問診をする医師
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しかし、抗がん剤治療の実状は、上述してきた通りである。あわてても「治癒は難しい」という現実は変わらない。セカンドオピニオンを求めて、他院のがん治療医の意見を聞くこともできる。大切な人生である。可能な限り、ご自分で納得できるまで行動していただきたい。

しかしながら、ステージ4の固形がんに対して、ほとんどのがん治療医は、エビデンスに基づいた抗がん剤治療こそが最善の医療だと言うだろう。だが、それは治療を提供する医師から見た場合の最善という意味であり、上述してきた抗がん剤治療の現実をみれば、限られた時間を生きる患者さんにとって最善とは限らないのである。