※本稿は、山崎章郎『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)の一部を再編集したものです。
つらい副作用を体験する患者さんは少なくない
「国立がん研究センター」の「がん情報サービス」では、抗がん剤治療は延命やがんによる身体症状の改善を目的にしている、と言ってはいるが、がん細胞を叩きのめすために使用される抗がん剤は、正常細胞も攻撃するために、様々な副作用をもたらすことになる。副作用を軽減する対策はいろいろ工夫されているというが、私もゼローダで苦しんだようにつらい副作用を体験する患者さんは少なくない。
治癒を前提にはできないステージ4であれば、延命された時間のほとんどが、副作用との闘いの日々に費やされてしまう場合も多いのだ。
さらに、副作用の症状が軽減したとしても、抗がん剤の持つ毒性が消失するわけではない。だから、延命を目的にしていながら、副作用で縮命することも、また稀ではない。
残念ではあるが、1日でも長い延命を目指して頑張っていても、がんの進行は止められず、やがて通院も難しくなるぐらい体力が低下してくる。それが現実なのである。
治癒の希望が断ち切られた患者を診療する病院はほとんどない
そして、治療医から「できる限りの手を尽くして、延命のための治療に取り組んできましたが、これ以上治療を続けるメリットは、なくなりました。もう治療は終了したほうがいいと思います。治療法がない以上、通院する意味はなくなりますので、今日で終診です」と言われてしまうのだ。
冷静に考えれば、治療医には最初から分かっていたことを、その日改めて伝えられただけのことである。
治療医からは治すことが目的ではなく、延命が目的の治療であることは伝えられていたとしても、苦闘の中で微かに抱いていた奇跡的な治癒への希望は、その日断ち切られる。分かっていても切なくつらい瞬間だ。
そして「今後は在宅、もしくは緩和ケア病棟での療養を考えてください」と付け加えられる。患者さんやご家族にとっては、突き放された想いになるだろう。
だが、治療を求めるがん患者さんは次から次へといる。残念ながら、治療手段がなくなった患者さんの、その後の経過を引き続き診療していく余裕のあるがん治療病院は、多くはないのである。