希望する生き方や医療を身近な人にあらかじめ伝えておく

以上を踏まえれば、最優先課題は、治癒が難しい以上、いずれ確実に来る死までの限られた時間を、どう生きるのか、ということになるだろう。

そのことに関連してACP(Advance Care Planning アドバンス・ケア・プランニング)について触れておきたい。わが国では厚生労働省主導で「人生会議」とも意訳されており、その大切さがテレビやポスターで広報されているので、ご存じの方も多いだろう。

要するに、人生の最終段階に備えて、そのような状況になった場合に希望する生き方や医療の在り方などを、自分の意思をはっきりと表明できる状態の時に、家族や身近な人々、医療・介護関係者などと、話し合い、確認し合っておくことを意味している。それは限られた時間を自分らしく生きるための基本でもある。

このACPをどのタイミングで行うかなどについては、その人の病気の種類や状態、年齢などを踏まえて、様々な立場から論議されている。

だが、固形がんの場合、ステージ4の診断がついた時点、即ち、治療しても治癒は難しいということ、そう遠からず死に直面する可能性が高いということ、が分かった時点が、ACPの一番適切なタイミングなのだ、と私は考えている。

通院目的で不本意ながら抗がん剤治療を選択する患者もいる

さて、繰り返し述べているが、ステージ4の固形がんに対する標準治療は、現時点では課題の多い抗がん剤治療が中心である。そして、標準治療とは、公的医療保険の使える治療、という意味でもある。つまり、公的医療保険を使ってステージ4の固形がんの治療を受けようとすると、抗がん剤治療にならざるを得ない、ということなのだ。

この抗がん剤治療は病院への通院が難しくなるぐらい体力が低下している患者さんは対象にはならない。しかし、ステージ4の固形がんと診断された時点では、私もそうであるが、少なからぬ患者さんは、まだまだ普通の生活が可能な状態だ。

それら、まだ普通の生活は可能だが、抗がん剤治療の実状を踏まえた上で、抗がん剤治療は選択したくない患者さんは、治療を受けないのであれば来院する意味がないからと、通院そのものを断られてしまうことも稀ではない。結果として、不本意ながらも、抗がん剤治療を選択せざるを得ない患者さんもいるだろう。

しかし「抗がん剤治療は選択したくない=早く死にたい」訳ではない。ゆえに、ワラにもすがる想いで、公的医療保険の使えない怪しげな代替療法や民間療法、そして、私もそうであったが、高額な免疫療法などを自費で受ける人々も出現してくる。このように、標準治療と公的医療保険の現実の前で途方に暮れながら、拠り所を探し求める患者さんたちは、「がん難民」ともいわれるのだ。