ホスピス医の山崎章郎さんは、ステージ4の大腸がんの抗がん剤治療に取り組み、ひどい副作用に苦しんだ。別の治療法を模索した山崎さんは、食事療法に加え、従来の抗がん剤を少量だけ使うことで副作用を軽減させる「がん共存療法」にたどり着いた。山崎さんの著書『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)より、一部をご紹介しよう――。(第2回)
病院のベッドの上の患者
写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat
※写真はイメージです

「患者ごとの抗がん剤の適量が無視されている」

私が取り組んでいる「がん共存療法」は、「無増悪生存期間」の延長を目指した、標準治療としての抗がん剤は使用しないがん治療である。そのため、最初は読み飛ばしてしまったが、なぜか気になっていた「個々の適量による化学療法/がん休眠療法」(国際医療福祉大学市川病院腫瘍内科、高橋豊医師)を、今回は熟読してみることにした。なお、高橋医師は化学療法と表現しているが、これは抗がん剤治療と同義なので、今までの文脈上、抗がん剤治療と変換して記述させていただくことにする。

さて、熟読して、ここにも標準治療としての抗がん剤治療の現状に疑問を抱き、その課題に真摯しんしに向き合ってきた医師がいることを知った。私なりに高橋医師の論点を要約すると、次のようになる。

高橋医師は、まず「抗がん剤は個々人によって適量があるはずであり、本来であればその適量を調整することが正しい治療法と考えられる。だが、現在の標準治療である抗がん剤治療は、個々の適量を無視した方法である」と主張する。

その理由を「新薬が承認されていくプロセスには、抗がん剤の副作用を調べる毒性試験として第I相臨床試験というものがある。その目的は、被試験者が、その毒性に耐えられる最大耐用量を決めることである。しかし、標準治療では、その量、もしくはその量より一段階少ない量の抗がん剤が、個々の適量を考慮することなしに、体表面積だけで、一律に投与されることになっているからだ」と説明する。

当然、その抗がん剤の量では多すぎる人もいるはずである。これが標準治療としての抗がん剤治療の様々な課題の原因になっている可能性もある。