「がんと上手くお付き合いしながら、長生きしよう」

更に詳細を調べようとしてネットで検索をしてみた。高橋医師以外にも、しっかりと「がん休眠療法」に取り組んでいる医師がいたのだ。

「銀座並木通りクリニック」院長の三好立医師であった。そのホームページを通して、三好医師の取り組みの概要が明らかになってきた。そして、三好医師の著書『少量抗がん剤治療 “がんを生きる”ための、もう一つの抗がん剤治療』(監修・片岡達治、東京図書出版、2019年)を入手し、熟読してみた。

三好医師は、高橋医師の「がん休眠療法」と同様な概念の下に、薬学博士である片岡氏と共に独自に工夫した取り組みを「少量抗がん剤治療」と表現している。そして、著書の中で、そのコンセプトは「がん細胞を叩くことばかり考えずに、がんと上手くお付き合いしながら、長生きしよう」である、と書き述べている。

このコンセプトは、表現は違うが、高橋医師の「腫瘍を少しでも縮小させることを目指すのではなく、増殖抑制を長く継続させること」と同義であり、私が定義した「がん共存療法」の目的とも同義であることが分かる。

抗がん剤の投与量をあえて少量にする「少量抗がん剤治療」

ところで、著書によれば、三好医師が使用する抗がん剤の量は、標準治療に使用される抗がん剤の5分の1から20分の1だという。しかし、標準治療の前提になっている耐用量ぎりぎりの抗がん剤の量でも、治癒が難しい固形がんに、少量の抗がん剤で本当に効果があるのだろうか、という素朴な疑問が湧いてくる。その疑問に対して、三好医師は著書の中で、高橋医師と同様に抗がん剤の臨床試験に触れて、

山崎章郎『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)
山崎章郎『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)

「抗がん剤の毒性を調べる第I相臨床試験では、その最大耐用量に達する前に、既に治療効果の出る患者さんが、少なからずいることが分かっている。また、第I相臨床試験の目的は、最大耐用量を調べることであるため、副作用が出ない程度の量で効果があったとしても、そこに注意が払われることはあまりなかったのだ」

と指摘する。なるほど、そういうことだったのかと、納得してしまう。

その上で、三好医師は著書の中で、2016年に開催された「第54回日本癌治療学会学術集会」のシンポジウムで、ご自身が発表した「IV期がんに対する少量抗がん剤治療の検討」について触れている。

その中で、固形がんの治療効果を表す「SD(安定している状態)」が2カ月以上続いた患者さんは、308名中148名(48%)だった、と報告している。また、がんが消えた患者さんは2名、縮小した患者さんは27名いたことも報告している。

標準治療としての抗がん剤治療のエビデンスの「効果があったとしても数カ月から数年の延命効果」と比較しても、「少量抗がん剤治療」がそれなりの成果を上げていることが良く分かる。

ただし、「少量抗がん剤治療」は、第I相臨床試験の実状を基にした、三好医師の臨床経験に基づいて行われており、エビデンスのあるものではない。