がんの増殖を抑える「休眠療法」

また、高橋医師は、抗がん剤治療による延命期間を詳細に検討した結果「がんが縮小しなくても増殖抑制が継続できれば、延命効果が得られる」ことも見出した。

そこで、抗がん剤治療の目的を、従来の「腫瘍を少しでも縮小させることから、増殖抑制を長く継続させること」に変更し、それを「がん休眠療法」と名付けることにした、と言うのである。要するに「がん休眠療法」は、抗がん剤は使用するが、それは標準治療としての抗がん剤治療とは、別物であるということだ。

がん細胞のイメージ
写真=iStock.com/Dr_Microbe
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「がん休眠療法」はできる限り副作用が軽度で済むように、個々人に合う適量を求め、それを継続的に使用することで「無増悪生存期間」の延長を目指す治療法のことだったのだ。

高橋医師の提唱するこの「がん休眠療法」の目的は、私の求めている「がん共存療法」と同じであることが分かる。

ただし、この「がん休眠療法」には、標準治療になるほどのエビデンスはないため、高橋医師は標準治療から外れた患者さんを対象に行っている、とのことだった。

例えば、

①標準治療としての抗がん剤治療を受けたものの、副作用が強くて抗がん剤治療の継続ができない患者さん
②高齢などの理由で、治療医から抗がん剤治療は難しいと判断された患者さん
③抗がん剤に対する拒否感から、標準治療としての抗がん剤治療は選択したくない患者さん

である。

公的医療保険による診療も可能

ただ、標準治療でないとすれば、公的医療保険の対象にはならず、自費診療になってしまうだろう。そうなると、かなりの高額になってしまうかもしれない。

とすれば「がん休眠療法」は「がん共存療法」の条件である「より多くの患者さんが受けられるような方法であること」から外れてしまう。

ところが、である。高橋医師の「がん休眠療法」の解説の中に、公的医療保険による診療が可能だ、との記述があった。思わず、国際医療福祉大学市川病院の医事課に電話をして確認してしまったが、やはり、通常の公的医療保険で大丈夫です、との返事であった。

であれば、「無増悪生存期間」の延長を目指す「がん休眠療法」は、抗がん剤は使用するが「がん共存療法」の条件に近づいてくる。