「食料危機」時に犠牲になるのは食料輸入国
アメリカは、自国の農業保護(輸出補助金)の制度は撤廃せずに、都合のいいように活用し、他国に「安く売ってあげるから非効率な農業はやめたほうがよい」といって、世界の農産物貿易の自由化と農業保護の削減を進めてきた。
そして、安価な輸出をおこなうことで他国の農業を縮小させてきたのである。
それによって、基礎食料(コメ、小麦、トウモロコシなどの穀物)をつくる生産国が減り、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの少数の農業大国に依存する市場構造になってしまった。
その結果、需給にショックが生じると価格が上がり、投機マネーも入りやすくなる。
さらに、不安心理が煽られ、輸出規制が起きやすくなってしまったのだ。
そして価格高騰が増幅されやすくなって、高くて買えないどころか、おカネを出しても買えなくなってしまった……。
それが2007年のオーストラリアなどの旱魃と、アメリカのトウモロコシをバイオ燃料にする政策に端を発した、世界的な食料危機につながったのである。
こうした構造ができてしまった以上、いま、おこなうべきことは、貿易自由化に歯止めをかけ、各国が食料自給率を向上させる政策を強化するしかない(図表2参照)。
食料自給率を向上させる政策は、輸入国が自国民を守る正当な権利である。
したがって、「2008年のような国際的な食料価格の高騰が起きるのは、農産物の貿易量が小さいからであり、貿易自由化を徹底して、貿易量を増やすことが食料価格の安定化と食料安全保障につながる」というWTO(世界貿易機関)などの見解には無理があるといえよう
では、メキシコ、ハイチなどでは、2008年に実際に何が起きたのか。
主食がトウモロコシのメキシコでは、NAFTA(北米自由貿易協定)によってトウモロコシの関税は撤廃されていた。
だから、国内生産の激減した分はアメリカから買えばいいと思っていたところ、価格の暴騰が起きて輸入できなくなり、暴動が起こる非常事態が発生してしまったのである。
アメリカには、トウモロコシなどの穀物農家の手取りを確保しつつ、世界に安く輸出するための手厚い差額補填制度がある。
それによって、穀物へのアメリカ依存を強め、ひとたび需給要因にショックが加わったときに、その影響が「バブル」によって増幅されやすい市場構造をつくり出してきた。
にもかかわらず、財政の負担が苦しくなってきたので、穀物価格の高騰につなげられるきっかけはないか、と材料を探していたのは間違いない。
そうしたなかで、ブッシュ政権は国際的なテロ事件や原油高騰が相次いだのを受け、原油の中東依存を低め、エネルギー自給率を向上させる必要がある、さらに、環境に優しいエネルギーが重要であるとの大義名分(名目)を掲げて、トウモロコシをはじめとするバイオ燃料を推進する政策を開始したのである。
その結果、2007年の世界的な不作をきっかけに、見事に穀物価格の吊り上げへとつなげたのだ。
つまり、アメリカの食料を貿易自由化する戦略の結果として、食料危機は発生し、増幅されたのである。