日本の農業はこれからどうなるのか。元農水官僚で、東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏は「貿易自由化で利益を得る勢力が、農協を攻撃し、農家の利益を奪ってきた。この結果、農家は高齢化と低年収に喘いでおり、2030年ごろには農村が崩壊する恐れがある」という――。(第2回)

※本稿は、鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

開会中の世界貿易機関(WTO)閣僚会議の会場周辺で国内農業の保護を訴える日本の農業関係者
写真=AFP/時事通信フォト
開会中の世界貿易機関(WTO)閣僚会議の会場周辺で国内農業の保護を訴える日本の農業関係者=1999年12月2日、アメリカ・シアトル

「2030年には日本の農村が崩壊」の衝撃

農村地帯の実態は厳しさを増している。

集落の耕地を、集落全体で役割分担して維持していこうとする集落営農組織の優良事例を見ても、平均年齢は68.6歳と高齢で、後継者がいるのは2人だけ、といったケースが増えている。また、機械での収穫などを担う基幹的作業従事者(オペレーター)も高齢化していて、年収も200万円程度と低く、次を担う後継者もいないという事態も常態化している。

農業全体でもこの傾向は同じだ。農林水産省の資料によると、農業従事者の平均年齢は67.9歳、農業所得の平均は121万円となっている。

このような現状では、2030年頃には全国的な農村の崩壊が顕在化してくるだろう。

さらに、農家の1時間当たり所得は平均で961円ととても低い(図表1)。

1時間当たり所得の比較
出典=『農業消滅』より

農産物価格が安い(買い叩かれている)、つまり、農家の自家労働が買い叩かれていることになる。これでは後継者の確保は困難と言わざるを得ない。

なぜ、そんなに所得が低いのか。その大きな要因は、自動車などの輸出のために農と食を差し出す貿易自由化が進められたことにある。