「第2のかんぽ生命」として「農協マネー」が狙われている

農協改革の目的が「農業所得の向上」というのは名目に過ぎない。

本当は、

①信用・共済マネーの掌握
②共販を崩して農産物をもっと安く買い叩く
③共同購入を崩して生産資材価格を吊り上げ
④農協と既存農家が潰れたら農業に参入

のための改革である。

規制改革推進会議の答申の行間は、そのように読める。

①については、郵政解体の経緯を振り返るとわかりやすい。

アメリカの金融保険業界が、日本の郵貯マネー350兆円の運用資金がどうしても欲しかったので、「対等な競争条件」の名目で解体(民営化)せよと言われ、2001年からの小泉政権時代におこなわれてきた。

ところが、民営化したかんぽ生命を見て、アメリカの保険会社のA社から「これは大きすぎるから、これとは競争したくない。TPPに日本が入れてもらいたいのなら、『入場料』として、かんぽ生命はがん保険に参入しないと宣言せよ」と迫られ、所管大臣はしぶしぶと「自主的に」(=アメリカの言うとおりに)発表した。

だが、それだけでは終わらなくて、その半年後には、全国の2万局の郵便局でA社の保険販売が始まったのだ。

さらに、近年(2019年から20年にかけて)、かんぽ生命の過剰ノルマによる利用者無視の営業問題が騒がれた。

鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書)
鈴木宣弘『農業消滅』(平凡社新書)

その少し前、日本郵政がA社に2700億円を出資し、近々、日本郵政がA社を「吸収合併」するかのように言われている。

だが、実質は、「(寄生虫に)母屋を乗っ取られる」危険があるのだ。

かんぽ生命が叩かれているさなか、「かんぽの商品は営業自粛だが、(委託販売する)A社のがん保険のノルマが3倍になった」との郵便局員からの指摘が、事態の裏面をよく物語っている。

これが「対等な競争条件」なのだろうか。

要するに、「市場を全部差し出せば許す」ということだ。

これがまさにアメリカのいう「対等な競争条件」の実態であり、それに日本が次々と応えているということである。

郵貯マネーにめどが立ったから、次に喉から手が出るほど欲しいのは、信用・共済、併せて運用資金150兆円の農協マネーである。

これを握るまで必ず終わらないというのが彼らの意思である。

アメリカは、日本の共済に対する保険との「対等な競争条件」を求めているが、保険と共済は違うのだから、それは不当な攻撃である。

相互扶助で、命と暮らしを守る努力を国民に理解してもらうことが最大の防御であろう。

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