貿易自由化を進めるほど農家が貧しくなる
貿易自由化の進展と食料自給率の低下には明瞭な関係がある。
1962年に81あった輸入数量制限品目が現在の5まで減る間に、食料自給率は76パーセントから38パーセントまで低下しているのだ(図表2)。
食料は国民の命を守る安全保障の要であるはずなのに、日本には、そのための国家戦略が欠如しており、自動車などの輸出を伸ばすために、農業を犠牲にするという短絡的な政策が採られてきた。
さらに国民に、日本の農業は過保護だということを刷り込み、農業政策の議論をしようとすると、「農業保護はやめろ」という議論に矮小化して批判されてきた。
農業を生贄にする展開を進めやすくするには、農業は過保護に守られて弱くなったのだから、規制改革や貿易自由化というショック療法が必要だ、という印象を国民に刷り込むほうが都合がよかった。
この取り組みは、長年メディアを総動員して続けられ、残念ながら成功してしまっている。
しかし、実態は、日本の農業は世界的にみても、決して保護されているとはいえないのである。
農家の取引交渉力はスーパーより圧倒的に弱い
もう一つの問題は、農産物の買い叩きである。
「いまだけ、カネだけ、自分だけ」の「3だけ主義」のグローバル企業の行動は、種を含む生産資材の吊り上げ販売、農産物の買い叩きと消費者への吊り上げ販売であると筆者は論じてきた。
その通りのことが日本でも起こっていることが、次の数字からもよくわかる。
まず、食料関連産業の規模は、1980年の49.2兆円から、2015年には83.8兆円に拡大している。
けれども農家の取り分は12.3兆円から9.7兆円に減少し、シェアは25.0パーセントから11.5パーセントに落ち込んでいる。
我々の試算(図表3)では、すべての品目で農産物は買い叩かれていることがわかる。
数字が0.5のとき、産地と小売の力関係が五分五分で、0.5より小さく、0に近づくほど、農家が買い叩かれていることを示している。
また、酪農における酪農協・メーカー・スーパー間の力関係を詳しくみると(図表4)、スーパー対メーカー間の取引交渉力は7対3で、スーパーが優位となる。酪農協対メーカーは1対9で生産サイドが押されている。
だから、2008年の食料危機のとき、餌代がキログラム当たり20円も上がって、酪農家がバタバタと倒れた。これは日本がもっとも顕著だった。