「鶏卵実質自給率0%」の衝撃

その一方、日本政府は農業の規模を拡大することへの支援政策を進めた結果、畜産において超大規模経営はそれなりに増えた。

だが、高齢化などによる廃業が増えていることで、全体の平均的な規模は拡大しても、その減産をカバーしきれず、総生産の減少と地域の限界集落化に歯止めはかかっていない。

それに加えて、飼料の海外依存度を考慮すると、牛肉、豚肉、鶏卵の自給率は現状でも、それぞれ11パーセント、6パーセント、12パーセントと低い。

このままだと、2035年には、それぞれ4パーセント、1パーセント、2パーセントと、信じがたいほど低水準に陥ってしまう。

酪農に限っては、自給率が8割近い粗飼料の給餌割合が相対的に高いので、自給率は現状で25パーセントあり、2035年でも12パーセントと、ほかの畜産に比べればマシな水準ではある。

だが、それでもこの低さである。

さらに付け加えると、鶏のヒナは、ほぼ100パーセントが海外依存なので、それを考慮すると、実は鶏卵の自給率はすでに0パーセントに近いという深刻な事態なのである。

現状では、80パーセントの国産率の野菜も、実は90パーセントという種の海外依存度を考慮すると、自給率は現状でも8パーセントで、2035年には4パーセントと、信じがたい低水準に陥る可能性があるのだ。

「種は命の源」のはずが、政府によって「種は企業の儲けの源」として捉えられ、種の海外依存度の上昇につながる一連の制度変更(種子法廃止→農業競争力強化支援法→種苗法改定→農産物検査法改定)がおこなわれてきたので、野菜で生じた種の海外依存度の高まりが、コメや果樹にも波及してしまう可能性がある。

コロナ禍によって発生した「輸出規制」

コメは、大幅な供給の減少が続いているにもかかわらず、それを上回るほど需要が落ち込んでいるので足りている、と思われがちだ。

だが、最悪の場合には、野菜と同様に、種採りの90パーセントが海外でおこなわれるようになったら、そして、物流が止まってしまうような危機が起これば、コメの自給率も11パーセントにまで低下してしまう恐れがある。

つまり、日本の地域の崩壊と国民の飢餓の危機は、「NHKスペシャル」が予言した2050年よりも、もっと前に顕在化する可能性を孕んでいるのだ。

FAO(国連食糧農業機関)によれば、コロナ禍によって2020年3月から6月の段階で輸出規制を実施した国は19カ国にのぼったという。

日本では、コロナ禍によって、中国からの業務用野菜などの輸入が減ったことや、アメリカから食肉などの輸入が減ったことなど、グローバル化したサプライチェーンに依存する食料経済の脆弱性が改めて浮き彫りになった。

日本の食料自給率は38パーセントと述べたが、FTA(自由貿易協定)でよく出てくる原産国ルール(Rules of Origin、通常、原材料の50パーセント以上が自国産でないと国産とは認めない)に照らせば、日本人の体はすでに「国産」ではないとさえいえる。

食料の確保は、軍事、エネルギーと並んで、国家存立の重要な3本柱の一つなのである。

輸出規制は簡単に起こりうるということが、2008年に続いてコロナ禍でも明白になったのだ。