地域の課題をクラブチームが解決する

さらにJリーグは、プロスポーツの持つ役割を再定義し、「プレーする」「観る」「支える」という3つのモジュールに分解しました。そして外部のさまざまなプレイヤーと組むことで、社会的な意義を広げる活動を展開しました。

そのひとつが、Jリーグの地域課題解決の活動「シャレン!」です。「シャレン!」は、積極的な社会連携により、地域の課題解決に貢献する取り組みで、世界にも類がない活動です。

3つのモジュールの中の「支える」に当たります。例えば、福島ユナイテッドでは、クラブ内に農業部を作り、地元農家と一緒になって、選手が生育から収穫までを行っています。さらに「ふくしマルシェ」として、ホーム、アウェーに限らず、全国の試合会場に出店し、今では公式オンラインショップも開設するなど、農業支援にとどまらない、新たなビジネスとして期待されています。

横浜F・マリノスは、新型コロナウイルスの影響で客足が遠のく飲食店と住民を結ぶことを目的に、ファンやサポーターなどから情報を収集し、ネット上に、「ホームタウンテイクアウトマップ」を作成して貢献しています。

ガイナーレ鳥取は、現役選手やスタッフが子どもたちと一緒に公園遊びを実施し、外で仲間と楽しく過ごすことの大切さを伝えています。

地域が抱える課題を、各クラブが多くの人々をつなぐ“ハブ”となり解決しているのです。

このようにJリーグは、自らの役割を「分解して」モジュール化し、「デジタルの活用」、さらには、「外と組む」という3つの視点を通した“脱自前”を実践することで、社会的な存在意義をより高めたのです。

スポンサーが投資する大義名分を作った

Jリーグは、“本業”を再定義することによって、今までの固定観念では実現できなかった企業や地域社会との連携をも生み出しました。

従来、企業とプロスポーツとの関わりは、スポンサーという形で選手を支援し、その代わりに自社や自社製品の広告宣伝をしてもらうというメリットを得るものでした。その一方で、株主から見た場合に、投資効果が見えにくいという課題も抱えていました。

企業がより積極的にスポーツに関わるには、単なる広告スポンサーを超えた、社会課題解決のパートナーとしての“大義”が不可欠でした。

本来スポーツには、感動によって人の心を動かせるという“強み”があります。Jリーグには“心の豊かさ”をもたらすことで地域社会に貢献する大義がありました。企業や地域自治体は、こうした“大義”を共有することによって「内向きなタコツボ」を脱して、Jリーグをハブに新たな関係を作り出すことができたのです。

スポーツが持つ“本来の強み”をいかした企業や地域社会との連携は、「他者との連携を推し進めることで、自らの“強み”を見極め、さらに伸ばす」という“脱自前”のあり方を教えてくれる取り組みなのです。

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