なぜ多くの日本企業が成長を止めてしまったのか。デロイトトーマツグループ執行役の松江英夫さんは「日本企業は事業や雇用の維持にこだわり過ぎている。例えば、電子機器メーカーのオムロンは、この10年で売上高と従業員数は減ったが、一人当たり営業利益は伸びた。本当に重要なのは『事業規模』ではなく『収益性』だ」という――。
※本稿は、松江英夫『「脱・自前」の日本成長戦略』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
日本では事業売却は失敗と捉えられる
今までの日本企業では、多くの事業を抱えることで売上規模を拡大し、雇用を維持し続けてゆくことが経営の使命であると考えられてきました。
従って、基本的には、コア事業もノンコア事業も自前で経営することが当たり前でした。そうした視点からは、事業を売却することは、全体の売上を下げるだけでなく、事業や雇用を維持できなかった“失敗”と後ろ向きに捉える意識が強かったのです。
最近でこそ株主の意向が強まり、事業を売却する選択肢が受け入れられつつあるものの、やはり事業を手放すことへの心理的抵抗が強いのが実態です。
手がけた事業を自前でやり続けることを優先する考え方は、強いオーナーシップの表れと評価できる一方で、全体の収益性を低下させる要因にもなっています。旧来の“事業の自前主義”の固定観念が、企業を自縄自縛に陥らせているのです。
これからは売上規模ではなく収益性が求められる
しかし今や時代は変わりました。経済がグローバル化し、株主をはじめとした資本市場の影響力が強まる中で、「売上ではなく企業価値を高めることが大事だ」という考え方が一般的になりつつあります。
これからは、売上規模ではなく、「収益性」を高めて企業価値を上げることが、より求められます。現在抱えている事業の全てを自前で経営する“事業の自前主義”が、これから先に果たして企業価値を高めることに繋がるのかを問い直す時期に来ているのです。