市場評価を高めたオムロンがやったこと
売上や従業員数という“規模”に依存せずに、収益性を上げ、市場の評価を高めることに成功した例として、電子機器メーカーのオムロンの取り組みがあります。
オムロンは、2011年から2020年に至る10年間での取り組みで、企業価値を大きく向上させました。特に2015年以降の6年間では、売上と従業員数は減少している一方で、一人当たりの利益は伸びています。
2015年時点で従業員数が約3万8000人でしたが、2020年には約2万8000人へと減少、また売上高も約20%減少しています。しかし、従業員一人当たり営業利益は2015年時点の165万円から、2020年には221万円となり3割以上増加しています。
加えて、資本市場からの評価についても、株価は2015年の約2倍(2021年11月時点)に成長しており、これはTOPIXの伸びと比べるととても大きい数字です。株価は、企業の将来の収益性への期待を表したものなので、企業規模は縮小しても、将来への期待は上がったことを意味します。
コア事業の拡大とノンコア事業の売却
オムロンが、資本市場から評価されている背景には、長期ビジョンに基づいた事業ポートフォリオ変革(PX)、いわば、“事業の脱自前”があります。
オムロンは、1959年に会社の憲法「社憲」を制定して以降、そのDNAを継承しながら時代の変化に合わせて企業理念を更新しています。それはOurValues(私たちが大切にする価値観)と呼ばれ、「ソーシャルニーズの創造」、「絶えざるチャレンジ」、「人間性の尊重」といった社会的な価値観を中核に据えています。
そのうえで2030年ビジョンを掲げて、自社の強みである“自動化”を軸に「センシング&コントロール」などのコア技術を活用して、解決できる社会課題領域を定めて取り組んでいます。事業ポートフォリオ変革においても、長期的なビジョンを念頭に事業の入れ替えを行っています。
とりわけ、2015年以降は事業を買収することと同時並行で、売却や譲渡を積極的に進め、大胆に事業構成を変える変革を行ってきました。
事業評価の基準として「ROIC経営」を中心に据えた点も重要な意味を持っています。投下した資金に対するリターン(ROIC=投下資本利益率)を最上位の物差しにして意思決定し、その基準に基づきステークホルダーとの対話を行ってきたのです。
このように、企業における成長は、単に売上や規模ではなく、収益性を高めることで資本市場から評価を得て“企業価値”をいかに高めるかにあるのです。