親にとって不都合な結果も受け入れる

たくさんのいじめ相談を扱っていると、被害者の親にとって不都合な結果が出てくることもあります。たとえば、私が相談を受けたケースで、こんなことがありました。

ある日の夕方、Aさん(母親)が仕事を終えてマンションの高層階にある自宅に帰ろうとすると、玄関前のホールに、憂鬱ゆううつそうな表情を浮かべた息子のBくんがボンヤリと立っていました。

ただならぬ気配を感じたAさんがBくんを自宅に引き入れて、いったいどうしたのかと問いただすと、Bくんはひとこと、「学校でいじめられている」と言ったのです。

それを聞いたAさんはパニック状態になって、翌日、仕事を休んで学校に怒鳴り込みました。

「私の帰りが少しでも遅れたら、うちの子は飛び降り自殺をするところだったんですよ。いったいどうしてくれるんですか!」

事態を重く見た学校側は、すぐさま事実関係の調査を開始しました。ところが、調査の結果、意外な事実が判明したのです。なんと、「いじめなんてなかった」と当事者であるBくん自身が言い出したというのです。

制服姿で丘に一人で立っている学生
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです

Bくんによれば、母親のAさんは日ごろから躾に非常に厳しく、Bくんにとって恐ろしい存在だというのです。その日は、普通に学校に行き何のトラブルもなく自宅に帰ってきたのですが、家に入ろうとして、鍵を持っていないことに気がつきました。朝、鍵を持って出るのを忘れてしまったのです。

Bくんは、鍵を忘れたことをAさんに激しく叱られる様子を思い浮かべて、すっかり憂鬱になってしまいました。その時、ちょうどAさんが帰ってくる姿が見えたのです。Bくんは言います。

「お母さんが帰ってきて鍵を開けてくれたので、鍵を忘れたことはバレずに済みました。だけど、学校で何かあったんだろうってしつこく聞くので、とっさに、いじめられてるって言ってしまったんです。そうすれば、鍵を忘れたことを言わないで済むと思って……」

こうなると、いじめから子供を守るどころか、親から子供を守る方法を学校と議論しなくてはなりません。

一般的に被害を訴えた側に問題があったというと、第三者的な立場の方々は一斉に否定や反論をしますが、いじめは千差万別です。学校の対応に問題があるケースもありますし、被害者のつもりが、わが子が加害者だったという場合や、保護者自身に問題がある場合も実際にあるのです。子供たちのために問題を早期解決改善するには、学校・教育委員会・保護者それぞれが明らかとなった問題に向き合い、反省すべき点は反省し、改める事が大切だと思います。

(構成=山田清機)
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