飲食業や建設業など日本企業の人手不足を埋めているのが外国人労働者だ。もともと低賃金で弱い立場で働いていた彼らは、コロナ禍で「辞めさせられやすく転職しづらい」というさらに過酷な状況に置かれているという。労働問題に取り組むNPO法人POSSEに寄せられた相談の一部を紹介する――。

※本稿は、今野晴貴・岩橋誠『外国人労働相談最前線』(岩波ブックレット)の一部を再編集したものです。

労働者階級ピラミッドのイラスト
写真=iStock.com/rudall30
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人手不足が深刻な14業種で働く「特定技能」の外国人

日本はこれまで移民労働者を正面から「労働者」として受け入れるのではなく、留学生や技能実習生といった「サイドドア」を活用しながら対処してきました。しかし、技能実習の建前と現実の乖離かいりが問題になるにつれて、きちんと労働者として受け入れるべきだという機運が高まり、2019年4月、「特定技能」という在留資格のもとで、はじめて外国人を「単純労働者」として受け入れることになりました。

これは、人手不足が深刻な14業種(建設、宿泊、農業、飲食料品製造業、外食業など)に限定したうえで、最終的には期間制限なく滞在できるような仕組みです。一見すると、技能実習のような奴隷状態からは解放されるので問題なさそうですが、この制度のもとで働く外国人の環境もやはり劣悪だということが、POSSEに寄せられた相談から明らかになりました。

台湾出身のDさん(20歳代男性)は日本文化や料理に興味を持ち台湾の大学を卒業後、2017年に東京の日本語学校に入学。2年間日本語を学んだ後に、特定技能である外食業の試験を受けて見事合格。学校の紹介で見つけた神奈川県にあるレストランに採用されます。カレーやバーベキューなどが売りのこのレストランで、2019年4月から調理を担当することになりました。

「日本の食文化に精通していない」から給料が低い

しかし、このレストランの労働環境は過酷で、毎日朝8時頃から夜22時頃までの長時間労働を強いられます。1カ月の残業時間は最長で105時間と、過労死ラインの月80時間を遥かに超えていました。しかし、これだけ働いたにもかかわらず、残業代は毎月固定で3万円しか支払われず、そもそも残業代が固定で支払われるという説明すら受けていませんでした。本件については、労働基準監督署が賃金不払いで労働基準法違反だと是正勧告を下しており、POSSEの支援を受けてDさんが加入した労働組合を通じて会社は未払い賃金の支払いを行いました。

このレストランでは、Dさん以外にもインドネシアやスリランカ出身の多くの外国人が調理や配膳の仕事をしていましたが、みな同じように残業代が支払われていませんでした。そのうえ、Dさんによれば、調理という同じ仕事をしているのに、「日本の食文化に精通していない」という理由で外国人だけ「日本人」よりも給料が低くなっているということです。

これは労働基準法第3条の国籍による差別や同一労働同一賃金の原則に反している可能性が高いのですが、会社は「問題はない」と主張しています。このような外国人に対する賃金差別はDさんの働くレストランだけでなく、工場やコンビニなどでも確認されています。