劣悪だった労働環境がコロナ禍でさらに悪化

Dさんの事例は、新型コロナウイルスの感染拡大とはあまり関係がありません。メディアでは、コロナによって仕事や住まいを失い悲惨な状況に置かれた外国人がクローズアップされることが多いのですが、そもそもコロナ以前から労働環境は劣悪であり、人権侵害が蔓延していました。

そこに起こったコロナ感染拡大は、劣悪だった外国人の労働環境をさらに悪化させる方向に向かいました。POSSEへの相談件数は急増し、2020年2月までの1年間には年間50件ほどだった相談件数が、2020年度は464件と、約9倍に増えました。やはり大半がサービス業で働く労働者からで、コンビニやスーパー、飲食店で働く留学生や、休校になった語学学校の講師、そしてインバウンド観光客向けのツアーガイドやホテルのフロントなど観光、宿泊業関連からの相談がほとんどでした。

相談者のうち85%は非正規もしくはフリーランスで、正社員はほとんどいません。また、相談者の在留資格や国籍はバラバラですが、「就労ビザ」を持っている人からの相談が一番多く、次に留学生、そして技能実習生、中には難民申請中の人からの相談も寄せられました。

やはりこれらの業種では、客足が遠のいたことで店舗が閉鎖されたり、労働者のシフトがカットされたことで給料が減ったり解雇されたりして生活に困窮しているという相談が目立ちました。ただし、次に見ていくように、その過程で企業側が本来果たすべき責任を無視して、都合よく外国人労働者を「使い捨て」にしている現状がありました。

暗い部屋で頭を抱えて座り込んでいる男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
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バイトのシフトがゼロになり、学費が支払えない

埼玉県に住むスリランカ人のEさん(20歳代男性)は、自動車整備士になることを目指して2年前から留学生の資格で専門学校に通っています。毎月の家賃と学費を支払うために、都内の大手ファミリーレストランチェーンでアルバイトをしており、週25時間ほど働いて毎月10~12万円ほど稼いでいました。家賃と学費を支払うと手元に残るお金は少なく、ギリギリの生活を送っていましたが、あと1年で学校を卒業して整備士として働くことが決まっていました。

しかし2020年4月、状況は一変しました。緊急事態宣言を受けて、このファミリーレストランは全店閉鎖を決めます。もともと3月の時点でお客さんがかなり減っており、Eさんはシフトの一部をカットされていましたが、4月以降は店自体がやっていないということで、シフトは完全にゼロに。このままでは家賃も学費も支払えなくなるので、Eさんは店長に休業時の補償についてLINEで問い合わせましたが、返事はありません。

すでに翌年からの就職先も決まっていたEさんはなんとか今年の学費さえ支払えればよかったのですが、そのあてもなくなり、学校からは学費支払いの催促電話が来ていると困っていました。