国外の新薬承認が日本で長い時間がかかる理由
我が国の厚生省(現在の厚生労働省)は、民間の製薬会社やベンチャー企業に対する助成を行わず、新しく開発された薬剤、あるいは治療法などの許認可のみを行っている。これは、他の省庁、たとえば経済産業省が、我が国の企業の創造力と国際競争力を高めるため資金援助を行っているのに比べ、対照的であり、奇異でさえある。
私を含め、読者の方々も、国外で薬効著しい薬が開発、市販されても、我が国の厚労省が容易にこれを認可せず、多くの場合約1年後にやっと認可されることに焦燥感を覚えられた記憶がおありであろう。このような事例に対する厚労省の言い分は、「我が国の国民と欧米人とは体質が異なり、欧米で使用されている薬剤の販売を我が国で直ちに許せば、副作用が出る可能性がある」というものである。
では厚労省は、国外で販売されている薬を、実際に多数の被験者に投与し、副作用の有無を調べているのであろうか。厚労省の研究機関である国立感染症研究所では、そのような業務は行っていないようである。したがって、悪く勘ぐれば厚労省は、自らの存在あるいは権威を示すため、このように認可を遅らせているとも考えられる。
ここでは、この厚労省の不合理、理不尽な対応により、経済的困難にあえいでいる我が国の鍼灸師の例について、少し説明させていただきたい。
鍼灸が保険対象になった欧米、ならない日本
まず、ワクチンや薬物の有効性を確認するには、最終段階として二重盲検法を実施する必要がある。これは被験者を二つのグループに分け、一方のグループには本当のワクチン、あるいは薬物を接種・投与し、他方のグループには無害、無益の「偽薬」を接種・投与し、これらのグループにおける効果を統計的に比較するものである。
この方法は、無害、無益な偽薬を接種・投与されていたとしても、心理的な安心感から偽薬の効果が現れる「プラセボ」効果を除外するため考案された。
さて、我が国で長い伝統を持つ「鍼灸」分野に対する欧州各国の研究者の関心は、昔から高く、フランスでは心電図に及ぼす鍼灸効果などが研究されていた。これに対し、第2次世界大戦終了後、我が国に駐留した米軍は、鍼灸治療は無意味であるとしてこれを廃止させようとし、我が国の生理学者たちの懸命な説得でこれを撤回させた。
この出来事とは対照的に、第2次世界大戦終了後、鍼灸はドイツをはじめとする欧米各国で急激に流行するようになり、現在も広く行われている。特に欧米で鍼灸を扱う医師たちは、国際的に協調し、数カ国にまたがる数千人規模の、膝の疾患に対する鍼灸治療を、健康保険の対象とすることに成功した。
そもそも、皮膚に鍼を刺入する行為は、二重盲検法とはなじまない。しかし欧米の医師たちは、医師にも被験者にも鍼を刺入した、あるいは刺入されたと感じられるような巧妙な鍼刺し入れ装置を考案し、数千人規模の二重盲検テストの実施に成功したのである。