大腿骨骨折の母親「お父さん、私、こんなんなっちゃったわ〜」

精神病院に入院した父親は、まずは薬で興奮状態を抑えられた。面会に行くと、寝ていることが多くなり、南野さんは「これで良かったのか」と不安になる。しかし徐々に父親は落ち着きを取り戻してきた。

いずれもハズレだった小規模多機能ホームと有料老人ホームでは、衛生状態も良くなかったことが、この入院で発覚。医師や看護師、病院のソーシャルワーカーにこれまでの経緯を話すと、「そんなことはありえない」と一様にびっくりされた。

2019年6月。自宅で寝ていた母親が、起き上がるときにバランスを崩し、後ろに倒れ、そのまま起き上がれなくなる。ちょうど南野さんが不在だったため、母親は携帯電話で南野さんに連絡。急いで帰ると、母親は横たわったままで動けず、痛みも訴える。南野さんが救急車を呼ぶと、運良く父親が入院している病院へ運ばれた。そこは母親が定期的に抗がん剤治療を受けている病院だったので、都合が良かった。母親は大腿骨を骨折しており、そのまま入院になる。

大腿骨骨折のX線画像
写真=iStock.com/praisaeng
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父親に、母親が骨折して同じ病院に入院したことを告げると、それまでぼーっとしていることが多かった父親が、「会いに行きたい」とハッキリ言う。南野さんはすぐに看護師の了承を得て、父親を車椅子に乗せた。

母親の病室を訪れると、「あらお父さん、私、こんなんなっちゃったわ〜」と母親。すると父親は、何も言わず、ただポロポロと涙を流した。それは南野さんにとって、初めて見る父親の涙だった。

父親が精神科へ入院している間に、南野さんは施設探しを進めていた。パンフレットを取り寄せ、問い合わせをし、10カ所以上見学。しかし、入居の可否を尋ねた施設からは音沙汰なし。南野さんは内心焦っていた。

そんな中、2つ上の姉夫婦とケアマネジャーを交えて話し合いの場が持たれた。

南野さんが、「父にとって一番いい施設はどんなタイプになるんでしょうか?」と訊ねると、ケアマネジャーは、「特養かグループホームなのですが、現状、空きがありません」と顔を曇らせる。すると、「多少金額がかかっても構いませんので、空きがあるところを探していただけませんか?」と姉が言った。

3つ目に選んだ施設は…これが良心的な最高の施設

その翌日の昼、ケアマネジャーから電話が入る。どうやらケアマネジャーは、朝から事業所の職員総出であらゆる施設の空き情報を片っ端から調べてくれていたところ、グループホームで1カ所だけ空きがあることが判明。「これからすぐに2人で見学に行きましょう!」と連絡をくれたのだ。

そこは片道1時間ほど。ケアマネジャーは、父親や南野さんたち家族の状況を説明する資料や、必要な書類などをそろえて万全の態勢を整え、車で迎えに来てくれた。地図を頼りにグループホームへ向かう道すがら、南野さんはケアマネジャーが尽力してくれた経緯を知った。

「私にはこんなに頼もしい味方がいる。このとき初めて、自分の大変さばかりに目が行き、自分だけがつらいと思っていたことを恥じました……」

到着すると、すでに施設は夕食前の忙しい時間帯。それでも職員たちは快く受け入れ、隅々まで見学させてくれた。そのうえで、これまで小規模多機能ホームや有料老人ホームでの経緯を話すと、

「大丈夫ですよ。ここでは過去にこちらから出て行ってくれと言ったことはありません。利用者さんに叩かれたり、壁に穴を開けられたりということはありましたが、介護施設では日常茶飯事。うちでは職員も利用者さんも、怪我人が出ないように最善を尽くします。出て行けと言われても、困ってしまいますよね?」

優しく語りかけられ、南野さんは必死に涙をこらえた。それでも、

「いろいろな方が入居されていますが、私たち職員も学ばせていただいています。日々、すべてが学びです」

とダメ押しされると、もう涙は止まらなかった。2019年7月上旬、78歳の父親はグループホームへの入所が決まった。