※本稿は、佐藤大介『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
異様だったオウム元幹部たちの“死刑報道”
2018年7月6日朝、安田好弘弁護士は大阪の伊丹空港にいた。オウム真理教の教祖だった松本智津夫(教祖名・麻原彰晃)元死刑囚の弁護人を務めていた安田弁護士だが、元教団幹部の新実智光元死刑囚、中川智正元死刑囚について、再審や恩赦についての弁護を担っていた。
その日は、大阪拘置所に収監されている新実元死刑囚と面会するため、早朝の便で東京から大阪に向かっていたのだった。
安田弁護士は、伊丹空港に到着した後、東京・赤坂にある自身の事務所に電話を入れた。羽田空港を出発する間際の午前7時半過ぎ、報道各社からの問い合わせを通じてオウム元幹部への死刑執行があるとの情報をつかんでおり、確認をするためだった。
そこで、松本元死刑囚のほか、これから面会に行く予定だった新実元死刑囚、そして広島拘置所に収容されていた中川元死刑囚に、刑が執行されたことを知った。「再審準備のための弁護人として、新実さんと中川さんとは定期的に面会していました。1カ月に1回くらいでしょうかね。その日は新実さんと午前中に会う段取りになっていました。(執行のニュースを聞いて)国家の強さというものを、まじまじと実感させられましたね」
午前7時半過ぎに、安田弁護士のもとへ記者からの問い合わせがあったことからわかるように、松本元死刑囚らへの執行は事前に報道各社へリークされていた。当日の午前8時過ぎから、テレビ各社が「法務省が松本死刑囚らの死刑執行手続きを始めた」と速報し、新聞・通信の各社もインターネット上で報じている。
特別番組を組んだ民放の中には、死刑が確定している元教団幹部の顔写真をボードで示し、執行が確認された人物には「執行」というシールを張り付けるなど、選挙での当確を打つような手法で報じたところもあり、報道は一気に過熱していく。