刑務官との会話で夫の死刑執行を悟る

新実元死刑囚は2012年8月、オウム真理教の後継団体「アレフ」の元信者だった女性と獄中結婚しており、死刑執行後、遺体はこの妻が引き取った。執行があった日の模様などをつづった妻の手記が、月刊誌『創』の2018年12月号に掲載されている。

手記によると、妻は新実元死刑囚が大阪に移送された後、連日のように面会を続けており、執行当日も午前8時に大阪拘置所を訪れた。面会の申し込みをすると、受付窓口まで来るように放送で呼ばれ、出向くと刑務官に「今日は会えません」と言われたという。

「どうしてですか?」と聞くと「お答えできません」と言われました。その時に、嫌な予感がしました。「執行ですか?」と泣きそうになりながら何度も聞くわたしに、刑務官は「何もお答えできません」「本人の都合です」「ここにいても会えません」と必死に言うのです。もうひとりの刑務官を見ても、厳しい表情を浮かべるのみでした。(中略)「本人から連絡が来たら会えますか?」と聞くと、刑務官が非常に苦しそうな表情を浮かべ、「然るべきところから連絡が……」と言いかけました。その瞬間、執行を悟りました。

妻は一旦、拘置所の外に出たが、午前10時過ぎに拘置所から電話があり、新実元死刑囚の刑が執行されたことを告げられた。遺体と遺品の引き取りのため、すぐに拘置所へ向かった。拘置所内の応接室で渡された死亡診断書には、死因の欄に「刑死」と書かれ、執行時間は「8時33分」、死亡確認時間は「8時49分」と記されていたという。

その時の気持ちを、妻は「16分も吊るされてたんだ、と思いました」と、つづっている。

「もう夫は罪人ではありません」

遺体とは拘置所で対面できず、搬送された葬儀会社で会うことができた。「服の下に手を入れ、心臓の上に手を置くと、熱いままでした。本当に穏やかな顔でしたので、『やっと楽になれたんやね』と言いました」。

葬儀会社の職員からは、ひつぎに入っていた物として500ミリリットルのペットボトルのお茶と水がそれぞれ1本、饅頭まんじゅう2つ、そしてプラスチックのコップが渡された。執行直前に渡されたとみられ、水のペットボトルが少し減っていたという。

棺
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妻の自宅に搬送された新実元死刑囚の遺体は、そこで4日間を過ごし、火葬された。布団に寝かされた遺体には、はっきりと執行の痕跡が残っていた。

「枕に血が広範囲ににじんでいましたので、首の包帯をめくってみると、縄の跡がくっきり凹み紫色になり、首の右側から出血したようでした」

妻は、手記の最後でこう述べている。「死刑制度自体にはわたしは反対の意見ですが、夫は日本では死刑に値する罪を犯しました。それに対して夫は、命をもって罪を償ったんだ、とわたしは信じています。もう夫は罪人ではありません」