街から人がいなくなった新型コロナの悪夢

神保町にある企業の本社ビルが、テレワークに切り替えたのが最初の変化だった。2000人ほどの社員が通うビルで、ランチ客の多くが通っていた。同じような企業が2020年3月に入って続出し、街を歩く人の数が明らかに減っていた。

当初黒田は、それほど悲観的な見通しを持っていなかった。理由は、神保町という街の特性にある。東日本大震災の時も、にぎわいは普段と変わらなかった。神保町は店を開けておくだけである程度の客が見込めるという、知り合いの店主の言葉をそんなものかと聞いていた。

しかし現実は予想以上だった。平日でランチが60食程度まで落ち込み、夜は壊滅的だった。外出せずに家に帰っているのだろう。週末は雨が降ると20食程度だ。仕入れ業者に聞くと、他店でも野菜はいつもの半分くらいしか出ないという。

飲食店の営業スタイルの変化も影響している。ここに来て増えてきているのが、夜の売り上げが見込めないためランチ営業を開始する飲食店だ。ただでさえ少なくなった客足が分散してしまっている。どの店も生き抜くのに必死だった。

プレオープン時に会社の元同僚と。手前が黒田氏。一番左が町田。
筆者提供
プレオープン時に会社の元同僚と。手前が黒田氏。一番左が町田。

緊急事態宣言で事業プランが次々白紙に

下北沢にある「焼き麺スタンド」の1号店も同じ状況で、週末に50食、平日は40食以下という状況だ。コロナ以前と比べると週末は半分程度になった。行列ができることもほとんどなく、開店当時に戻ってしまった。

開始したばかりのバナナジュース事業にも影響が出ていた。3月にある企業の本社ビルにフードトラックを出店する予定だったが、外部業者の扱いを見直すことになったという。事実上の白紙撤回だ。ほかの会社も、保険や衛生面の手続きで止まってしまっている。

焼きそばでは、「嵐にしやがれ」(日本テレビ系)への出演が予定されていた。店の撮影は終えたが、スタジオ撮影がこれからだ。日テレは現在外部業者の立ち入りを禁止しているので、緊急事態宣言が明けてからスタジオで撮影することになっている。

フジロックからの出店要請もあった。15万人程度の客が来場するイベントだ。8月21日~23日の3日間の開催が予定されており、91時間ぶっ続けの営業を企画している。怖いのは東京オリンピックの延期で、イベント自体が中止になる可能性がある。すべてはコロナ次第だった。

この頃コロナ対策と並んで黒田が悩んでいたのが、下北沢店の扱いだった。大成功した神保町に比べて売り上げが見劣りするうえに、店舗としての独自性が出せていなかった。

このまま焼きそば屋として継続していくか、比較的に好調だったバナナジュースの専門店に切り替えるか。週末の焼きそば需要を逃がさないためには、平日のみバナナジュース専門店というのも面白いかもしれない。または完全撤退か。打ち合わせをして、下北沢店の店長を任せる粕谷の考えを聞く予定だった。