酒乱の義父と飲み歩く夫

2022年1月。夫は、まん延防止等重点措置やオミクロン株もどこ吹く風で、前年末からの忘年会三昧に引き続き、年始も連日飲み歩く。

そんなある日、いつものように酒を飲んでいた義父が、例によって七瀬さんに喧嘩を売ってきた。泥酔してくだを巻いていた義父をたしなめた矢先のことだった。

「てめぇは嫁としてうちの家に入ったんだから、俺に従うのが当たり前だろ? 女のくせに黙れ!」

いつものようにテーブルや壁を叩きながら、七瀬さんの胸ぐらをつかんで罵倒する。

日本料理店でのテーブルや食器
写真=iStock.com/VivianG
※写真はイメージです

しかし、この日は珍しく夫が在宅だった。夫は七瀬さんから父親を引き剥がし、ものすごい剣幕で怒鳴る。

「何が嫁に入っただ? 何が女のくせにだ? 希子にさんざん世話になっておきながら、見下して偉そうな口をきくな! 土下座して希子に謝れ!」

今まで夫は、七瀬さんが義両親にされたことを伝えると、「俺の親のことを悪く言うな!」と言って怒るだけだった。だから七瀬さんは、しばらく目の前で何が起こったか、理解するのに時間がかかった。これまでも酔った義父が七瀬さんに暴言を吐いてきたことは何度もあったが、夫が七瀬さんをかばってくれたのは、このときが初めてだったのだ。

だが義父は、頑として謝らない。怒り心頭の七瀬さんは同居解消を訴えたが、夫は義父の代わりに謝るだけだった。

その翌日、前日にそんなことがあったにもかかわらず、また義父はリビングで酒を飲み、テレビを見て笑っている。怒りが収まらない七瀬さんは、義父を無視し続けた。

ところが3日後、義父は子供たちへのプレゼントまで用意して、七瀬さんに謝罪。突然、自分たちの洗濯や食器の後片付けなども率先してやるように。

「今さら取り入ってきても、傷ついた心はもう元には戻りません。私は同居解消を訴えましたが、夫も義父も私に謝るばかりで、頑なに首を縦には振りませんでした。そりゃあ、そうですよね。無償の家政婦兼介護要員がいなくなるのは困りますものね……」

相変わらず夫は毎晩のように飲み歩き、平日の夜はほとんど不在。七瀬さんは義両親と子供たちのために夕食を用意し、義両親と子供たちと食卓を囲まなければならない。

「私は誰と結婚したんだっけ? と思います。なぜ食卓には夫ではなく義父母? 毎日毎日毎日、大嫌いな義父母と食べる夕飯は苦痛でしかありません。夫に対する気持ちも、もう残っていません。世の中はコロナで大変なときなのに、月の半分は飲みに行くなんて、人としてどうかと思います」

月に1度の長男の療育に行く日、七瀬さんが不在にする間の次男の子守と、切れていた歯磨き粉の買い物を頼んだところ、「え? 次男いるのに? おんぶしてけって?」と夫は不満顔。「ベビーカーでもいいし。何か問題ある?」と七瀬さんが言うと、夫はブチ切れて罵詈ばり雑言を浴びせてくる。

夫婦げんかの度に、七瀬さんの人格を否定するようなことや、育ちが悪いなど父親や弟のことまで悪く言う夫に、七瀬さんはすっかり愛想をつかしていた。

そんなある日、同じ県内で一人暮らしをする75歳の父親から、「前立腺がんのステージ4だった」と報告があった。

七瀬さんは電話を切ったあと、崩れるように座り込んだ。