実際、同年10月末、国慶節の期間中に内モンゴル自治区を旅行した団体観光客から感染が拡大して街は封鎖。約1万人もの観光客が隔離施設に収容されるという事態になった。しかも、10日間の隔離だけで終わらず、専用バスや列車に乗せられて別の街に移動し、さらに2週間も隔離された。
楽しい5日間の旅になるはずが、1カ月もの苦痛に満ちた隔離生活になってしまったのだ。このようなことが起こるため、「おちおち国内旅行にも行けない」と嘆く人もおり、厳しすぎるやり方に対する不満や疑問の声は高まっている。
規制をめぐるトラブル動画は「氷山の一角」
2021年11月、広州市のショッピングセンターで、駐車場に入る際の体温検査でトラブルが起き、警備員の男性が客の男性を刃物で刺す事件があった。同年12月にも西安市のマンションのゲートで、警備員と住民女性がPCR検査をめぐって激しい口論になった。女性が「私は一般人じゃない。アメリカに7年住んでいた上級国民だ」というと、警備員が「それなら今すぐアメリカに帰れ」と言い返し、この女性は公共の秩序を乱したとして10日間の拘留処分となった。
厳しい規制が背景にある事件を取り上げる、このような報道は比較的少ない。日本でも時折、PCR検査をする医療従事者と住民の間で殴る蹴るのトラブルが起きているという中国の動画がニュース番組で報道されることがあるが、中国の知人によると「氷山の一角だ。実際には、小競り合いはあちこちで起きている」と話す。だが、中国メディアでもゼロコロナを否定する人の不満の声はあまり表面には出てこない。むろん、政府がメディアをコントロールしていることも関係しているが、それだけではない。
「どんな制裁が降りかかるのか…」言えない本音
ある中国人は次のような「本音」とも思える話をしてくれた。
「自分たちもSNSなど目立つところに、いちいち不満を書かないからです。私の友人の間では、以前は中国政府のおかげで中国は世界で突出して感染者数が少ないと喜んでいた人もいたけれど、武漢、西安、上海と、巨大都市でのロックダウンがどれだけ人々に強いストレスを与えているか、身をもって分かってからは、ゼロコロナを否定する声も相当高まっています。
でも、それをSNSなど多くの人が目にするところに書けば、どんな影響があるか分からないし、自分自身に制裁が降りかかってくるかもしれない。だから、ゼロコロナに反対とは口が裂けてもいえないのです。今はただじっと耐えるしかない。そう思っているのです」