3万人超の人間を夜通しで検査する徹底ぶり

それにしても、当初、巨大な上海市では市全域でのロックダウンは行わないといわれていたのに、結局ロックダウンに踏み切ったのはなぜか。もちろん感染者数が増えているからということが直接の原因だが、これは中国政府が昨年から強力に打ち出したゼロコロナ政策という方針を掲げ続けているからに他ならない。

中島恵『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)
中島恵『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)

私は『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)の取材のため、2021年夏から冬にかけて、中国国内に住む人々に、厳しすぎる政府のゼロコロナ政策についてどう思っているのかについて、話を聞いた。その際、それまでロックダウンの経験がなかった上海の人々は、ロックダウンに対して比較的肯定的な声が多かったのだが、それがわが身に起きた人の場合は反応が違っていた。

2021年10月末、上海ディズニーランドの入園者から1人の感染者が確認されたことが大きなニュースになったときだ。即座に2日間の休園が決定され、3万人以上の来園者とスタッフ全員がPCR検査を実施。全員の検査が終わって最後の人が敷地の外に出られたのは日付が変わった翌朝8時だった。

やむを得ないと思っていたが、わが身に降りかかると…

私の知人が住むマンションにも当日ディズニーランドに出かけた人が住んでいたため、居民委員会から居住者のSNSグループに連絡が入り、もしその人が感染していたらマンション全体が封鎖になるといわれたという。知人は「私はディズニーには行っていないし、その人は同じゲート内のマンションとはいえ、かなり距離が離れた棟なのに、なぜ私たちまで外出禁止になってしまうのか」と強く憤っていた。

その知人もそうだが、同じ中国でも、遠いところで起きているロックダウンならば「政府の厳しいゼロコロナ政策も感染者数を減らすため、やむを得ない」と思うようだが、いざわが身に降りかかると「厳しすぎる」と否定的になる人が多い。

「たとえ感染者数が落ち着いていても、いつ、どこで感染者が出るか分からない。その場合は同じ時間、同じ場所にいた人は全員隔離の対象にされてしまう。それがいちばん怖いのです」と話していた人もいた。

旅行しに来たはずが隔離施設に収容された

2021年10月、国慶節(中国の建国記念日)の7日間の大型連休の前、ある女性がSNSにスーツケースの写真とともに、次のようなコメントを書き込んでいた。

「もし今、5日間の帰省や旅行に出かけるならば、2週間分の衣服も持っていかないといけないですね。あなたにはその覚悟がありますか?」