中国で大企業や富裕層への規制や締め付けが強まっている。フリージャーナリストの中島恵さんは「日本人には意外かもしれないが、多くの中国人はそうした規制を好意的に受け入れている。そこには日本にはない、中国特有の事情がある」という――。

※本稿は、中島恵『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

中国の有名女優、范冰冰さん=2018年5月11日、フランス・カンヌ
写真=EPA/時事通信フォト
中国の有名女優、范冰冰さん=2018年5月11日、フランス・カンヌ

巨大IT企業は多額の寄付などを次々と発表

中国政府は「報酬、税制、寄付」の3分野を通じて、格差是正のため所得分配を促しており、富裕層や成功企業に「より多く社会に還元することを奨励する」と寄付を呼び掛けている。この方針を受けて、巨大IT企業のテンセント、アリババ、ネット通販のピンドゥドゥなどが、低所得者支援や社会貢献、多額の寄付などを行うと次々と発表した。

政府がIT企業への統制を強めていることから、企業は政府の圧力を避けようと必死だ。学習塾チェーン最大手といわれ、双減政策で打撃を受けた「新東方」は、閉鎖した約1万5000カ所で使用していた学習机と椅子、約8万セットを農村の小中学校に寄付すると発表した。

2021年11月11日の「独身の日」セールでも、最大手のアリババは取引状況に応じて寄付を行ったり、貧困家庭への支援を打ち出したりするなど、社会貢献に取り組む姿勢をアピールしている。

芸能人やインフルエンサー(KOL)などの有名人や富裕層に対しても、規制や締め付けが強まっている。2018年、日本にもファンが多い女優の范冰冰(ファン・ビンビン)が巨額の脱税容疑などで8億8000万元(約156億円)の支払いを命じられ、その後、趙薇(ジャオ・ウェイ)、鄭爽(ジェン・シュアン)なども同様に罰金の支払いを命じられた。ライブ配信などで大人気となったインフルエンサーと呼ばれる人々も同様だ。

こうした動きに対して、中国の芸能関係、日本の放送業界ともつながりがあるという中国人男性に意見を聞いた。

「芸能人ばかりがいい暮らしをしている」

「芸能人への規制強化について、私は大賛成です。多くの国民が、『スカッとした、いいことだ』と思っているのではないでしょうか。なぜなら一流芸能人のギャラが桁違いに高すぎるからです。

以前ある日本人が中国人の友人に、日本の映画の製作費は7000万~8000万円のものもあるというと、『それはドラマですか。金額があまりにも少なすぎる。信じられない』といわれたそうです。

中国の映画の製作費が高いのは、スケールが大きな作品でないと評価されにくいという以外に、出演者のギャラが高いからです。高すぎるギャラをもらいながら脱税するなんて許せない、芸能人ばかりがいい暮らしをしている、という不満の声は大きいと思います」