国際司法裁判所はロシアに武力行使の停止を命じている

なお憲章2条4項が禁止している武力行使には、自衛権行使と、国連安全保障理事会が発動する憲章7章の強制措置を含まない。例えば、現在ウクライナが行使している武力は、侵略者ロシア軍に対する自衛権の行使であり、合法である。ロシアは、ウクライナ東部にいる住民の保護のために武力行使をしているかのような言い方もしているが、規模と範囲と方法において、そのような説明が全く成立しないことは言うまでもない。

オランダ・ハーグの国際司法裁判所
写真=iStock.com/Monique Shaw
オランダ・ハーグの国際司法裁判所

3月17日に国際司法裁判所(ICJ)がウクライナの訴えを認めて、ロシアの武力行使の停止を命じる仮保全命令を出した。ウクライナが手続き論的にロシアも加入するジェノサイド条約に依拠した訴えを行ったこともあり、法的拘束力を持つ判断だ。ICJは、国際社会において最も権威のある法審査機関である。また、国連総会も、法的拘束力を持つものではないとはいえ、ロシアの国際法違反を非難する決議を採択している。ロシアが現代国際法の中核原則に違反していることは、すでに高い次元で確定していると言える。

国際法を軽視する日本人の大誤解

人間の社会は、規則によって成り立っている。規則がなければ、社会生活を営めない。ただし国内社会にも法を破る者はいるし、国際社会にいる。その違反者に対して社会がどのような態度をとるかが、法秩序維持のために重要になる。もし社会が法の違反を認めてしまったら、社会の秩序は成り立たない。国内社会でも、国際社会でも、同じだ。

日本では、著しく国際法の理解が低く、偏見も大きいため、「国際法などは法ではない」といった類いの言説がまかり通りがちである。日本では、司法試験でも公務員試験でも、憲法などの国内法科目ばかりが強調され、国際法を選択する者がほとんどいない。「国民主権が絶対で、憲法は国際法に卓越する」といったことが書かれている憲法学者の教科書を信奉し、いきおい余って国際法を蔑視するくらいにならないと、法律家にも公務員にもなれない。

さらに言えば、憲法学者が国際法を語っている場合、20世紀以降の現代国際法の話になっておらず、19世紀までの古い国際法の概念を参照していたりする。例えば憲法9条の絶対平和主義的な解釈の牙城である憲法学者の芦部信喜の教科書には、戦争とは宣戦布告を伴って行われるもの、などと書いてある。しかし宣戦布告などは、もはや国際法で使われている概念ではない。司法試験受験のバイブルである芦部信喜に従えば、「ロシアがまだ宣戦布告していないので、まだ戦争は起こっていない」といった話になってしまう。