ヤンキー向けではない「MEGAドンキ」の誕生

「目撃!ドキュン」で取り上げられた人も誇張されていたでしょうし、国道沿いに車が大挙して押し寄せたのはわずかな店舗だっただろうと思います。ヤンキーやDQNと呼ばれる人々の全員がドンキを愛して使っていたかというと非常に怪しいですし、ドンキ自体も2000年代後半あたりからその業態や規模をどんどんと変化・拡大させていきます。

つまり、世間でイメージされるヤンキー・DQNとドンキの結びつきはだんだんと弱まっていくのです。

それが最もわかりやすく表れているのが、ファミリー層向けの新業態「MEGAドン・キホーテ」(以下、MEGA)の開拓です。MEGA業態の登場は2008年。これが、ヤンキー向けだけではないドンキのありかたを象徴しています。

MEGAドン・キホーテ1号店
写真=時事通信フォト
千葉県四街道市に2008年6月13日、オープンした「MEGAドン・キホーテ四街道店」(千葉・四街道市)

MEGAとはなんでしょう。流通コンサルタントである月泉博は、創業者安田隆夫との共著『情熱商人』でこのように記しています。

ドンキとMEGAは同じ「ドン・キホーテ」という名前がついていて、業態分類的にはどちらも総合DS(引用者註:ディスカウントストア)に属するが、両者のターゲットとMD(マーチャンダイジング。引用者註:経営の仕方のこと)、業態構造はまるっきり異なる。(中略)ドンキの主力ターゲットは20〜30代のシングル族やノーキッズカップルで、彼らの夜型パーソナル利用が主体だ。

対するMEGAは、これまでのドンキにはあまり来店しなかったファミリーや中高年層を含むオール世代がターゲットで、どちらかと言えば昼型のファミリー利用に対応している。加えて店舗面積も、ドンキが300〜1000坪に対してMEGAは1000〜3000坪だ。

つまりドンキとMEGAの大きな違いとして「ターゲット層」と「店舗面積」の二つがあることがわかります。

買収した長崎屋の店舗を利用し、MEGA業態を拡大

ここで注目したいのは前者のターゲット層です。面積が大きいぶん、ヤング層だけではなく、ファミリー層にも対応した、いわゆる「ふつうのスーパー」のような側面も持っているのがMEGAの特徴です。

例えば、渋谷本店は地下1階がスーパーのようになっているのですが、この店舗もMEGA業態です。また、港山下総本店も、スーパーでよく見られるような冷凍食品を格納する什器がずらりと並び、その周りに大量に貼られたポップやけばけばしい張り紙を見なければ、そこがドンキであることを忘れてしまいそうなぐらいです。

MEGAは国道沿線などの郊外やターミナル駅近くに建てられているのですが、ここからもわかるように、その周辺に住んでいるファミリー層の需要を見込んでいるわけです。注目すべきは、その数がどんどん増えていること。すでに全国に100店舗以上はありますが、その原動力は、2007年に「長崎屋」を買収したことにあります。

長崎屋は、かつて日本に多くの店舗を持つ一大スーパーチェーンでしたが、ドンキに買収されてから、長崎屋を居抜く形で多くの店がMEGAに変わっています。もともと、郊外に多く立地しており、店舗面積が広かったこともあって、そのまま居抜けばMEGAのサイズになる店舗が多かったからです。

このようなカラクリで、ヤンキーやDQNに代表されるようなヤング層だけではない、ファミリー層をターゲットに据えたドンキが全国に増えているわけです。