「ドンキの前に溜まったヤンキー」という共通イメージ

それを顕著に表しているのが、兵庫県で結成された人気ロックバンド・キュウソネコカミが2012年にリリースした楽曲「DQNなりたい、40代で死にたい」です。この曲にはドンキの前に溜まったDQNに胸倉を掴まれたという描写があります。

DQNというのは、非常識な人や軽率な人を指すネットスラングで、ここではほとんど「ヤンキー」と同じ意味でとらえていいでしょう。キュウソネコカミは、2010年代に、若者の流行や日常で見かける光景を皮肉るような歌詞で共感を呼んでブレイクし、現在では音楽フェスのメインステージの常連です(ちなみに「DQNなりたい、40代で死にたい」をフェスで演奏すると何万人もの観客が楽曲の後半に登場する「ヤンキーこわい」というフレーズを大合唱します)。

つまり、彼らが歌ったドンキの前にいるDQNに胸倉を掴まれるという光景は、若いリスナーにとって十分にイメージができる状況なのです。それほど「ドンキ=ヤンキー・DQN」というイメージの結びつきは強いものだと言えるでしょう。

「ドンキ=ヤンキー」というイメージはどこから来たか

さらにヤンキー・DQNとドンキのつながりを詳しく見てみましょう。注目したいのはDQNという言葉の起源です。ヤンキーという言葉は、ドンキが誕生するずっと前から存在している言葉でしたが、DQNになると、少し事情は変わります。

DQNという言葉が誕生したのは、1994年から2002年にテレビ朝日系列で放送されていた「目撃!ドキュン」という番組がきっかけです。この番組は、不良や、とんでもない理由で離婚した夫婦を突撃取材するなど、一般的ではない生きかたをしている人々に注目したヒューマンバラエティです。そこで扱われた人たちが、番組名から派生して「ドキュン」と呼ばれるようになり、それがローマ字に変換されて「DQN」という言葉が誕生しました。

興味深いのは、番組の放送時期。この番組が放送された1994年から2002年までというのは、奇しくもドンキが1号店を繁盛させ、社会的に有名になっていく時期とほとんど同じなのです。

1989年の1号店開店直後は、創業者の安田が現在のドンキに見られるような経営手法を確立できていませんでした。そこから約4年の間、営業方法や経営戦略をめぐって試行錯誤の時期が続きます。そうして店舗運営の裁量権をスタッフに与える「権限委譲」の考えかたを生み出し、1990年代後半から2000年代前半ぐらいにかけて店舗数を増やしていくことができました。

そのとき、先ほども述べたような、ヤンキーが国道沿いに押し寄せたという報道もあり、「ドンキ=ヤンキーのたまり場」的なイメージがだんだんと根付き始めました。そんなタイミングで、この「目撃!ドキュン」が全国ネットで放送されたわけです。つまり、ドンキとヤンキー・DQNが結びついているというイメージは、メディアによって生み出されたのではないでしょうか。