ウクライナ侵攻は台湾侵攻に置き換えられる
安倍内閣で2度、防衛大臣を務めた小野寺五典衆議院議員は、筆者の取材に、デービッドソン前司令官を「情報収集力に長け、冷静に分析できる人」と評価したうえで、「私も同じ考えだ」と語っている。また、自衛隊出身で現在は自民党外交部会長を務める佐藤正久参議院議員も、「数年以内に台湾海峡の緊張は高まる」と危機感をのぞかせた。
では、予想される侵攻のシナリオを、ロシアのウクライナ侵攻の事例と照らし合わせながら示してみよう。
・中国による台湾侵攻のシナリオ
○ウクライナ侵攻と同様、基本は「速戦即決」。短期決戦を目指す。
○ロシアが、ドネツク、ルガンスク2州の独立を承認し拠点化したように、中国も金門島や馬祖諸島といった台湾の離島を奪い拠点化する。
○ロシアと同様、サイバー攻撃や電磁波攻撃を仕掛ける。
台湾軍の基地や軍用機、原発などを機能不全にする。携帯電話基地局を乗っ取り、GPSを操作し台湾軍や支援に来たアメリカ軍を違う標的に誘導する。偽のラジオ局を作りフェイクニュースを流す。
○ロシアが空港を攻撃し制空権を手に入れようとしたように、中国は台湾北部の樂山にあるレーダーを破壊する。
台湾軍とアメリカ軍の「目」を奪い、比較的平坦な台湾の東側から上陸作戦を実施する。
ロシアのウクライナ侵攻を、「気の毒」「早く終息してほしい」で終わらせることなく、また、戦況や停戦に向けた動きだけに注目するのではなく、以下の4つはしっかりチェックしておきたい。
(1)ロシア軍がウクライナ侵攻で示した能力
(2)アメリカはロシアやウクライナに対し何をしたか
(3)ウクライナ自身の防衛力
(4)ベラルーシなど隣国の動き
台湾有事や尖閣諸島有事に備えるなら、これら4つの要素をそれぞれ「中国軍の能力」「アメリカ軍の支援」「台湾および自衛隊の防衛力」「北朝鮮の動き」と置き換えることで、われわれが何を覚悟すればいいかがわかるはずだ。
老獪な外交戦術を繰り出す習近平の狙い
ロシアをめぐって中国は、国連総会での制裁決議で棄権に回った。また、習近平は、3月8日、フランス・マクロン大統領、ドイツ・ショルツ首相とオンライン形式で会談し、ウクライナ問題の解決に積極的な姿勢をアピールしてみせた。実に老獪な外交戦術だ。
中国の根底には、「台湾は自国の領土。あくまで内政問題」という強い認識がある。侵略が明らかなロシアに肩入れしたとなると、自分たちの「台湾を開放する」という正当性に疑問符が付く。
また、中国からすれば、ウクライナ侵攻自体は、アメリカの目をロシアに向けさせることになるため「是」とするが、長引くのは困るという事情もある。