2人の大統領は「闘うヒーロー」と「極悪人」に

⑥ リーダーを甘く見すぎた

ウクライナ大統領、ゼレンスキーを甘く見たこと。筆者の電話取材に応じたモスクワ在住のロシア人は語る。

「ゼレンスキーはコメディアン出身で41歳と若い。プーチンは、大富豪で閣僚経験もあった前任のポロシェンコとは違い、彼なら、少し攻撃すればNATOへの加盟を断念し国外に逃亡するだろうと甘く見ていたのではないか」

ところが、ゼレンスキーはロシア軍が迫る首都キエフにとどまり、連日、SNSで動画とともにメッセージを発信し、3月8日には英国議会にまでオンライン形式で登場し、「われわれは断固戦う」と国民を鼓舞する言葉を発し続けた。今や戦うヒーローだ。

一方、プーチンは、国際社会からは極悪人扱いされ、国内では「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥から「停戦」を求められ、国民からの批判にもさらされている。

⑦ 部隊の展開が早すぎた

ウクライナ国境や同盟国のベラルーシに派遣された兵士たちは、1年で最も寒い季節を、クリスマスや新年を祝うこともなく、早い時期からスタンバイ状態に置かれてきた。これでは士気が低下してしまう。

加えて、最前線での食料と燃料不足。侵攻当時の「速戦即決」作戦が頓挫したのは、ウクライナ側の想像を超える抵抗もあるが、兵站面での計画に問題があったと言わざるを得ない。ウクライナ各地でロシア軍の兵士が民家から食料などを強奪している事実がそれを浮き彫りにしている。

「中国の夢」実現には大きなハードルがある

ロシアの兵員は90万人、戦闘機などの航空機は1170機、地対空ミサイル設備は1520カ所。対してウクライナは兵員20万人。航空機120機、地対空ミサイル設備は80カ所。その差は歴然だ。

中国と台湾の軍事力もおおむね10倍の差があるが、それだけでは勝てないことは、ロシア軍のウクライナにおける戦況が雄弁に物語っている。

こうして考えれば、「台湾侵攻にはまだまだ越えなければならない大きなハードルがある」と考えるのが普通だ。

しかし、台湾統一を「核心的利益」と位置づけ、「中国の夢」とも語ってきた習近平である。1840年のアヘン戦争以降、およそ1世紀にわたって列強に領土を奪われてきた過去を、香港や台湾を併合することによって自分の代で清算しようという野望が透けて見える。

紫禁城を行進する中国兵(北京)
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