世界中にひきこもりは存在する

「羞恥心」を払拭ふっしょくできたのは、ひきこもり時代にインターネットを介してできた、海外の友人たちのおかげだった。

「長い間私は、自分が社会のレールから外れた恥ずべき存在だと思っていました。でも、それは狭い社会のフィルターを通じて見ていたから。もっと幅広い観点で自分を見られるようになってからは、『自分だけが特別に恥ずべき人間ではない』と開き直ることができるようになりました。視野を広げるきっかけになったのは、インターネットや海外で出会った友人たちの評価や言葉が大きいと思います」

山添さんは現在、YouTubeを使い、世界に向けて自分のひきこもりの体験談などを英語で発信している。

「海外にもひきこもりの人はたくさんいます。最近は『Hikikomori』という単語が英語圏に浸透しつつあり、英語圏の一部の辞書にも収録されています。私のYouTubeやSNSに海外から寄せられるメッセージから感じたのは、ひきこもる原因は日本と似ていて、親子関係やいじめ体験が関わっていることが多いこと。一方、海外特有の傾向としては、ドラッグ中毒がひきこもりのきっかけになっているケースも珍しくないようです」

2021年には海外のひきこもりの人々と共同し、ひきこもり体験談を収録したドキュメンタリー動画を制作。ドイツやアメリカ、インドネシアやリトアニアなど、11人の男女のひきこもり体験談を紹介している。

誰でもひきこもりになる可能性はある

内閣府が公表した「令和3年版 子供・若者白書(全体版)」の「不登校の状況」によると、平成25年度から令和元年度にかけて、小・中学生の不登校者は7年連続で増加し続けている。

不登校の要因は、「無気力、不安」が最も多い(39.9%)。次いで「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(15.1%)。3番目に多かったのは「親子の関わり方」(10.2%)だった。

「不登校」と聞くと、「学校の問題」「友人関係の問題」のようなイメージがあるが、「親子の関わり方」が3番目の要因に挙がっているように、「家庭の問題」も大きく関わっている。

山添さんのケースからも、きっかけは友人関係だったが、両親の関わり方も多大な影響を及ぼしていることがわかる。

息子と手をつなぐ父親のシルエット
写真=iStock.com/AlexLinch
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しかし、「不登校」や「ニート」など、近年「ひきこもり」に準ずる人口が増えているのはなぜだろうか。

自身も元不登校・ひきこもり当事者であり、2001年に不登校・ひきこもり状態の本人や家族の相談や援助を実践する「ヒューマン・スタジオ」を設立した丸山康彦さんはこう話す。

「かつては、大人になってもブラブラしている人は地域に1人や2人はいたようですし、『居候』という言葉も当たり前にありました。私見ですが、ひきこもりが増えている理由は、『大人になったら就労するのが当たり前』という価値観が年々強まっている反面、社会のキャパシティが狭まり、社会に出るルートが少なくなっているからだと考えられます」

丸山さんは設立から現在まで、約90人の不登校・ひきこもり状態の本人や家族の相談や援助を行ってきた。

「相談会や家族会を実施していると、誰でもひきこもりになりうるということがわかります。また、生きていて何らかの『困難に直面した/困難が積み重なった』ときの表れ方には、ひきこもり以外にも、非行や犯罪・いじめや虐待・自死や精神疾患などがあり、どれになるかは人それぞれです」