「上納金拒否・人事紛糾……」対立分裂の穏やかではない事情

この単立宗教法人の誕生の背景には、所属していた教団(包括宗教法人)からの離脱がある。近年、所属教団との確執が原因で、単立化するケースが増えているのだ。

とくに、歴史的な大寺院や大神社で単立になるケースが散見される。

門
写真=iStock.com/Nerthuz
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2016年1月には曹洞宗の名刹で織田家の菩提寺である萬松寺(名古屋市中区)が宗門との包括関係を解消すると発表し、物議を醸した。公益財団法人国際宗教研究所宗教情報リサーチセンターによれば、以下のような経緯が報告されている。

2014年、萬松寺の住職が東京都内の浄土真宗系単立寺院の住職を兼務することになった。曹洞宗はその寺院を帰属させるように萬松寺に求めたが、寺側はそれを拒否して、単立の寺院となった。背景には納骨堂事業などの経営上の理由があるとみられている。

また、浄土宗では近年、宗門と大本山の清浄華院が同院の法主(住職)人事を巡って対立。清浄華院が浄土宗からの離脱の意向を示したが、ギリギリのところで回避された。

神道界では神社本庁から、「こんぴらさん」で知られる金刀比羅宮(香川県)が2020年に離脱を表明して、話題になった。金刀比羅宮は本庁の不動産取引にたいして不信感を抱いており、たびたび係争が起きていた。

神社本庁は2021年、天皇の皇位継承後の大嘗祭において当日祭を開催するよう各地の神社に要請。金刀比羅宮も当日祭を開いたが、神社本庁から配られる供物「幣帛料」が大嘗祭当日までに届かなかった。本庁から嫌がらせを受けたと考えた金刀比羅宮は「決して許されない無礼な行い」と表明して、本庁との関係を解消するに至った。

宗教法人の単立化はわかりやすく例えれば、コンビニがフランチャイズから離脱し、独立店になることに似ている。独立すれば、フランチャイズ加盟金を支払う必要がなくなるメリットがある。細かな規約を守ることも不要になる。

宗教法人も同様で、仏教寺院の場合、包括法人から離脱すれば収入などに応じて決められている「賦課金」と呼ばれる上納金を支払う義務はなくなる。儀式のやり方や寺院の運営などについても、宗門の伝統的なやりかたに従う必要はなくなる。信者も、宗旨宗派にこだわらずより広く集めることが可能になる。

包括法人とのしがらみを解消し、経営環境を飛躍的に改善する手段のひとつとしては十分あり得る。

しかし、私は長期的にはデメリットのほうが多いように思う。何百年という歴史を有する伝統教団の、社会的な信頼性は何ものにも変えがたいからだ。単立寺院になってしまえば、新宗教と変わらなくなってしまう。また、後継者の育成についても問題がでてくる。

大手教団は大学を運営しており、例えば仏教系宗門大学だと、そこで教師(僧侶)の養成を行うことができる。また、宗門大学に行かずとも宗門が定める規定の修行を修めれば、教師(僧侶)になることができる。単立寺院の場合は、「自家育成」が可能だが、社会から信用に値する僧侶とみられるかどうかは別問題だ。さまざまな問題があり、いったんは単立化した寺院や神社が、教団に復帰する事例も出てきているのが実情だ。

人口減少、高齢化などの社会構造に飲まれつつある宗教法人。今後の舵取りはますます、難しくなりそうだ。

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