安くても「湿ったシケモク」は買うな
1965年、バフェットは「ひと吸い分だけ残っているかもしれない」と信じて同社の経営権を取得したものの、実際には同社には「一服できる分は残っていなかった」のです。バフェットは何とか立て直そうと努力を続けますが、1985年についに繊維部門を閉鎖、400人の工員を解雇、機械設備一式を16万ドル余りで売却することになりました。
バフェットはこう振り返りました。「バークシャー・ハザウェイの名前を耳にしなかったら、いまごろ私はもっと裕福だっただろうね」(『スノーボール(上)』)
それ以前、バフェットはバークシャー・ハザウェイの買収について「値段は投資において決断を左右する重要な要素です。バークシャー・ハザウェイは適切な値段で買えました」(『スノーボール(上)』)と強気の姿勢を貫いていましたが、たった一服さえできない「湿ったシケモク」に多くの資金を回してしまったことは、大いにこたえたのでしょう。
事業の優位性を最重視する方針に
この20年にわたる苦い経験を経てバフェットは、経営状態は良くないが、資産に比べて株価が極端に安い企業に投資する「シケモク買い」から、株価は資産の数倍になるもののカリフォルニアではかなう相手がいないシーズ・キャンディーズのような強いブランド力を持つ企業を買収することのメリットを強く認識するようになりました。
「まずまずの企業を素晴らしい価格で買うよりも、素晴らしい企業をまずまずの価格で買うことの方が、はるかに良いのです」(『バフェットからの手紙』)
困難なビジネスを立て直すのは難しいものです。そんな難業に挑戦するよりも、「まずまずの価格で買える、優れた経営者がいる、優れた事業」に投資しようというわけです。
特に大切なのは、事業が優れていることです。事業に優位性がなければ、たとえ優れた経営者をもってしても成功するのは簡単ではありません。優れた経営者と優れた事業の両方がそろえばベストですが、もしどちらか一方ならバフェットは優れた事業の方を選びます。