「最後にゼロをかければゼロ」

慌てたLTCMのエリック・ローゼンフェルドがバフェットに助けを求めましたが、既に手遅れでした。バフェットはIQ160を超える十数人がいて、みんなの経験年数を足せば250年にもなる彼らが巨額のレバレッジを使っていたことに驚きました。バフェットはこういいました。

「本当に頭のいい人たちが、これまでに何人も痛い目に遭いながら学んできたことがあります。それは、目を見張るような数字がずらりと並んでいても、最後にゼロをかければゼロになってしまうということです」(『バフェットの投資原則』)

株式掲示板に表示されている文字列
写真=iStock.com/D-Keine
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投資の世界には、絶頂期と破産を繰り返したジェシー・リバモアのように「最後にゼロをかければゼロになる」を地で行く運命をたどった人もたくさんいますが、バフェットがそうならなかったのはリスクとの上手な付き合い方を熟知し、リスクを最小にしながら成果を上げ続けてきたからなのです。

リスクと上手に付き合うための「安全域」という考え

バフェットは「バリュー投資の父」と呼ばれる恩師、ベンジャミン・グレアムの書いた本を何度も読み、ほとんど暗記をしていたほどの熱心な読者でした。しかし、実際の投資においてはグレアムのやり方すべてをそのまま無批判に実行したわけではなく、自分の頭で考えて守るべきものとそうでないものを取捨選択しているのも、注目すべき点です。

例えば、リスクを軽減するためとはいえ、行き過ぎた分散投資については非常に早い時期から意味のないものとして無視しています。一方、(1)株券ではなく事業を買う、(2)価格と価値の差を見極める、(3)安全域を持つ――といった考え方は忠実に実行しています。

リスクと上手に付き合ううえで欠かせないのが「安全域」の考え方です。安全域というのは、「現在の株価と企業の本質的価値との差額の領域」のことです。

安全域の考案者はグレアムです。グレアムは、短期的な株価は一種の人気投票のようなものであり、必ずしも正確な価値を反映するとはいえず、ゆえに短期的な株価は読むことはできないものの、長期的には株価は本来の価値と等しくなっていくという考えの下、割安株に資金を投入するバリュー投資という方法を実践していました。これが「安全域」の考え方です。