「役所の者」「NHK番組スタッフ」をかたり資産を把握する姑息な技

その理由のひとつに、詐欺の前触れ電話である、アポイント電話(アポ電)の巧妙化があります。電話をかけた相手に詐欺をしているとは思わせずに、役所などをかたり、情報をさりげなく抜き取っていく。このやり方が悪い意味で洗練化しているといえます。

以前に、NHKの番組アンケートを装った詐欺犯と思われる人物からのアポ電が報道されたことがありました。自称番組スタッフはまず「現在、お一人暮らしですか?」と問いかけます。そして「お買い物はお一人で行かれますか?」と尋ねて、銀行にお金を引き出しに行ける人物かを探ります。極めつきは、最後の質問です。

「(世の中の一般世帯の)預貯金平均額は600万円との数字が出ています。具体的な金額はお聞きするのは控えさせていただきますが、その金額より『上』か『下』かだけお答えください」

相手が「上です」と答えれば、「ありがとうございました」とさっと電話を切ります。番組アンケートの時間は全部で1分と少々です。すでにこの電話をかけているわけですから、名前、住所などの個人情報はある程度、わかっていることでしょう。そこに資産の状況が加わるわけです。

電話で受け答えするシニア女性
写真=iStock.com/dblight
※写真はイメージです

今回の詐欺事件も、似たような洗練された聞き出しの手法によって金塊の有無を含む資産状況などの重要な個人情報の多くが丸裸にされてしまったなかで、被害者に遭った高齢の女性は相手が本当の息子であると信じてしまい、トラブルに巻き込まれた息子を救うためなら、と金塊を差し出してしまったのではないかと考えています。

被害を防ぐためには、やはり「電話の詐欺は電話で防ぐ」という発想が大事になります。

先日も80代女性の家に詐欺の電話がかかってきましたが、AI(人工知能)機能が付いた装置を電話機に取り付けていたために「詐欺」とのアラートが区役所職員のもとに伝わり110番をして、お金を受け取りにきた14歳の少年が警察に逮捕されています。まさに、電話機が本人も気づかない詐欺を見抜いたわけです。

振り込め詐欺の被害が深刻になってきた時から、玄関に鍵をかけるように「電話にも鍵をかける」ことが大事であると訴えてきました。しかし当時は、あまりこうした防犯意識は乏しく、留守番電話にして知らない電話番号には出ないくらいしか方法がありませんでした。しかし今は、多くの会社がさまざまな詐欺対策用の電話を発売しています。

筆者の親も、自宅に詐欺対策用電話をつけましたが、こちらが電話をかけると、その番号を認識して「文明さんです」といった音声が流れて、親に教えてくれるのです。呼び出し音がなるととっさに電話に出てしまう高齢者の方もいますので、こうした音声で相手が誰かを知らせる手立ても、不審な電話を取らないためにも有効だといえます。ぜひとも、詐欺対策用電話を設置していない方は、「電話の詐欺は電話で防ぐ」ためにも検討することをお勧めします。それがだまされないことにつながります。

このご時世、自宅に多額の現金を置いていなくても、金塊を置いている人は、案外多いかもしれません。くれぐれも警察、役所など何者かになりすましたアポ電を通じて資産状況を知られないようにしてください。これで個人情報を伝えてしまうと、詐欺に遭う確率はぐっと増してしまいます。約5年ぶりに手口を変えて連続して発生した金塊詐欺をぜひとも覚えておき、被害を防いでください。

筆者の思うところですが、金塊はそれなりに重量があり、それを受け取った詐欺犯が、長時間持って歩くことは疑われやすく、難しいかと思います。となれば、車内などで待っていた近くの人物に受け渡すなどしているのではないかと考えます。

そこで、見守る私たちも、不審な車両が高齢者宅の近くに止まっていないかを気にしてあげることも大事になります。

それに、なんとも世知辛い世の中ですが、重そうな袋を持参した見知らぬ人物が高齢宅から出てくれば、これまた詐欺かもしれないと疑うことも必要なのかもしれません。

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