12月上旬までに、札幌市在住の60代男性が計1億6600万円の架空請求詐欺に遭った。道内では過去最高の額。ジャーナリストの多田文明氏は「男性が入院先のATMから振り込んでいたこともわかってきている。銀行窓口や街角のATMでは警戒も徹底されていますが、まさか病院内で詐欺が起こるとは誰も思わず、院内ATMへの注意・警戒が手薄だったのではないか」と指摘する――。
1億円分の札束の塊
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2021年12月、1億6600万円の架空請求詐欺の被害が判明しました。被害者は札幌市の60代男性で、北海道内では過去最高額ということです。振り込んだ回数は実に117回(6~10月)にものぼり、全財産を失ってしまったといいます。

「ついに、これだけの金額になってしまったのか」

詐欺犯への憤りとともに、これが筆者の率直な思いでした。

というのも、2020年10月にも同じ札幌市で50代男性が約1億900万円の架空請求の被害に遭っていたからです。これは単なる偶然なのか、この地域の人たちを狙ったものなのか、それは定かではありませんが、同系統の詐欺グループが相手の資産を把握したうえで、昨年以上のお金の詐取をもくろんでいたとしてもおかしくありません。

きっかけはSMSのメッセージ

なぜ、今回、1億6600万円もの架空請求詐欺の被害に遭ってしまったのか。2021年6月、60代男性の元にショートメッセージで「ご利用料金の支払い確認が取れておりません」との文面が届いたのが巨額被害のきっかけです。「NTTファイナンスサポートセンター」なる組織へ電話連絡するように促されます(「NTTファイナンス」は実在企業)。男性が電話をかけると「未納料金」を払うように言われます。

こうした手口の場合、最初に払わせる金額はたいてい数万~数十万円と少額です。詐欺犯らは、相手がだませる人物かどうかをこの金額を払わせることで見極めます。もしここでお金を払ってしまうと、詐欺のターゲットとしてみなされていまいます。そして次々にさまざまな役割を演じた人物から詐欺の電話がかかり、多額の被害になります。

この男性も最初に10万円ほどのお金を数回払うと、男性の元には「日本個人データ保護協会」「日本ネットワークセキュリティ協会」「神奈川県警察」などを名乗る電話がかかります。これらの協会や警察はすべて実在するものです。疑ってネット検索で調べると正規サイトが出てくるため信じてしまう人もいるかもしれません。

詐欺での王道パターンとして、相手の知らない知識で思考を止めて、焦らせるという手があります。

60代男性は「あなたの端末から、ランサムウエアが使われている」と言われます。ランサム? もしかすると、これを聞いた多くの人は「それ何?」となることでしょう。この時点で、すでにワナにはまっているといえます。よくわからない言葉で思考が止まると、詐欺犯は一気に畳みかけてきます。

被害者は117回も詐欺犯の指示に従って、お金を振り込んでいるので、事実経過もかなり曖昧になっていると思います。

そこで、筆者のこれまでの架空請求業者などへの取材経験から、男性は次のような話をもちかけられたのではないかと想定した形で話を進めます。読者の皆さんにおかれましては、ぜひともこのパターンで話を持ちかけられたら、詐欺だと思ってください。