最初は丁寧に説明し、信頼を得ようとする

詐欺犯の多くはネット関連の社員などを騙り「ランサムウエア」をわかりやすく説明をしてきます。こんな調子です。

「難しい言葉でわからないですよね。ランサムウエアの『ランサム』は、『身代金』のことです。サイバー犯罪者たちは、相手のパソコンやスマホなどに不正なプログラムを感染させて使えなくさせたところで、それを元に戻すための費用(身代金)を要求するのです」

被害者が内容を少し理解したところで「よく聞いてほしいのですが、その不正プログラムがあなたの端末から発信されていて、数十人の被害者が出てしまい、多額の被害金を発生させているのです」といった話をします。

白い仮面をつけたビジネスマン風の男性
写真=iStock.com/bee32
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知らぬ間に「自分の端末から不正プログラムが出て、被害を起こしてしいる」との言葉に、おそらく60代男性は人様に迷惑をかけてしまったと、パニック状態だったに違いありません。

気が動転しているところに、今後被害を発生させないために「サイバー保険に加入しなければならい」と言われれば、お金を払うのではないでしょうか。しかし、架空の請求ですのでいくらでも詐欺犯は嘘をついてきます。

そのひとつに「被害者の一人が自殺未遂をした」があります。

それを聞いた側は「誰かを自殺するまでに、追いやってしまった」と自責の念を抱きます。心の根の優しい人ほど、「自分のせいで……」と考えます。詐欺犯は、そのタイミングを見計らって慰謝料などの話を持ちかけます。申し訳ない気持ちでいっぱいの被害者は、迷わずにお金を振り込んでしまったに違いありません。人の優しさ、思いやりにつけ入ってお金をだまし取る架空請求が、どれだけ卑劣で、許せない手口かがわかると思います。

2020年10月から12月にかけて、1億900万円ほどの被害に遭った50代男性も「NTTファイナンス」を騙るメッセージをきっかけにして、同じように「サイバー保険」や「損害賠償」の名目で、次々にお金をだまし取られています。

2020年以降のコロナ禍で、還付金詐欺やオレオレ詐欺の手口が横行したために、注意喚起の重点もそちらにありました。架空請求への警戒が疎かになってしまう傾向があったようにも思います。架空請求を行う詐欺グループはそれをしたたかに狙っていたのかもしれません。50代60代の中年層で、ネット事情にあまり詳しくない人は、特に気をつける必要があります。

とはいえ、1億6000万円以上もだまされた男性は「なぜ100回以上も振り込んだのだろうか?」という疑問を抱く方も多いでしょう。

ここには詐欺犯らの「巧みな言い回し」があるのです。詐欺被害はたいがい、被害者が家族や知人など第三者に相談することで「それはおかしい」と気づき、被害が止まるものです。今回、それができなかったということは、男性の周りには相談できる環境がなかった。あるいは、詐欺犯から周りに言わないように口止めされていた。筆者はそう考えていました。

ところが、その後、驚くべき意外な事実がわかったのです。