「国全体でひとつのシステム」は行政コストの削減になるのか
普及させるなら、健康保険証や自動車免許証をマイナンバーカードに「切り替え」れば済むだろう。健康保険証「としても」使えるという話も予定より遅れている。「切り替え」の方向に進まないのは、各省庁の利権が背後にあるのは言うまでもない。
岸田首相は小川議員の質問に、「マイナンバーカードは我が国の社会全体をデジタル化していく、こうした取り組みを進める上で大変重要なインフラに当たるものであると認識をいたします」「決して無駄なものではなく、意味ある取り組みです」と答えている。だが、予防接種記録など自治体が管理してきたデータをすべてマイナンバーで統合して国が管理する必要がどこまであるのか。
今後、デジタル庁はバラバラになっている地方自治体のシステムを連携させていく「インフラ作り」をしていくというが、そうした「国全体でひとつのシステム」を目指すことが本当に行政コストの削減につながっていくのか。
デジタル庁の設立目的を見失っている
そもそもデジタル庁を新設したのは何のためだったのだろう。生みの親である菅義偉前首相は、「縦割り行政の打破」が目的だと言っていた。つまり、霞が関の仕事の仕方を大きく変えることにつなげるとしていたのだ。まさにDX(デジタル・トランスフォーメーション)である。岸田氏が言う「デジタル化していくインフラ」というのはそのひとつにすぎない。
どうも菅氏が首相の座を去って、何のためにデジタル庁を作ったのか分からない、という声がデジタル庁内部からも聞こえてくる。チーフテクノロジーオフィサー(CTO)など5人いるCxOの役割や役所の中での権限もいまだによく分からないままだ。
証明書がワンストップで取れますというのは、国民には分かりやすい話だが、そもそも証明書が必要になるのは年に数回あるかないか。そのために行政が肥大化するのでは、何のためのデジタル化か分からない。
デジタル化のために膨大な予算を使う本末転倒
企業ならば、デジタル化を進める際に、真っ先に取り組むのは、経理システムと、給与支払いなどを含めた人事システムだろう。企業が戦略を考えるには、まずもって会社の収支の現状を把握することが不可欠だ。国の予算書はいつまでたっても紙をベースにしたPDFで、各省庁縦割りでバラバラに同じような事業を行っている状態は放置されたままだ。
本来、膨らんだ財政支出を一気に削減するのがDXの目的のはずだが、逆にデジタル化のために膨大な予算を使うという本末転倒の動きになりつつあることを、カード普及予算は示している。デジタル庁の意味は本来、D(デジタル化)よりもX(業務方法の見直し)に重心があるはずだが、このままでは肥大化を続けるDのための予算を官民で食いものにすることになりかねない。アプリを作るのがデジタル庁本来の仕事であっては困るのだ。