ふるさと納税で稼いでも「焼け石に水」
「ふるさと納税」の季節がやってきた。お気に入りの自治体に「寄付」することで、自分が本来払う地方税から控除される仕組みで、ほとんど負担なしに「寄付」ができ、そのお礼に地域の特産品などの「返礼品」が手に入るため、人気を博している。年間の所得に応じて控除上限が決まるので、年末に向けて手続きをする人が急増する。年々寄付総額は伸び、自治体側も工夫次第で「収入」が増えるため、魅力ある返礼品を用意するなど、ふるさと納税獲得競争に力を注いでいる。
何せ、人口減少が深刻化し、地方税収が増える見込みが立たない中で、「ふるさと納税」が唯一といって良い「増収策」になっているのだ。住民の高齢化で社会保障費が増え続ける中で、道路や公共施設などインフラの老朽化が進んでも修繕する財源すらなかなか確保できない自治体が増えつつある。残念ながら、ふるさと納税が増えているとは言っても、その収入増では「焼け石に水」。国から配られる「地方交付税交付金」への依存度はますます高まり、自治体からは「自立する」意欲がどんどん失われている。このままでは多くの自治体が、座して死を待つ運命なのだ。
ふるさと納税制度の「生みの親」菅前首相が官邸を去った
だが、国は抜本的な自立策を立てないまま、ふるさと納税の拡大にも背を向ける。ふるさと納税制度の「生みの親」だった菅義偉前首相が官邸を去ったことで、制度そのものの先行きも危ぶまれる。いったい、自治体はどうなっていくのか。
「ふるさと納税」は第一次安倍晋三内閣だった2007年に、菅総務相が創設を表明した。働いて稼げるようになってから、自分が生まれ育った故郷に税金を納める仕組みが作れないか、というアイデアは多くの自治体首長などから出されていた。集団就職で上京した菅氏はその思いに共鳴したのだろう。以来、官房長官、首相としてふるさと納税制度を擁護し続けた。
2008年に始まった制度によって、寄付額は年々拡大。2020年度に自治体が受け入れた「ふるさと納税(寄付)」の受入総額は6724億円となった。2019年度は制度変更の影響で18年度を下回ったが、20年度は1.4倍に拡大、過去最高額を記録した。
人気の理由は何と言っても自治体が競って提供する「返礼品」の魅力だが、そうした「返礼品目当て」の寄付を総務省は批判的に見てきた。識者の中にも、「寄付なのに返礼品を出すのはおかしい」「ほとんど負担せずに返礼品をもらう仕組みは問題」という声があった。一方で、自治体からは「地元の特産品をアピールする一方で歳入も増え一石二鳥」「ふるさと納税を増やそうと創意工夫するカルチャーが役所の中に生まれた」と言った肯定的な声もあった。