人気音楽ユニット「いきものがかり」のリーダー水野良樹さんは、若い人から「好きなことを仕事にしたい」と聞かれたときに、必ず問い返す質問があるという。水野さんのエッセイ集『犬は歌わないけれど』(新潮社)から、一部をお届けする――。

18歳の「青くさい意地」

午前4時すぎ。街はもう、朝が来る予感の中にいた。

夜明け前の黒い空に地平からじんわりと群青色が足されていく。

静かだった。早朝アルバイトをしていた東名高速道路の海老名サービスエリア。実家から自転車で走って、従業員通用口に着くまで10分ほど。一日が始まる前のしんとした静けさの中で、少し急な坂道を上っていく。

吐く息は白かった。朝の起きがけにペダルをこぐのは大変だったが、10代のあの頃は、それに耐えられるだけの若さがあった。

そこまでする動機が何だったのか、今でもうまく説明ができない。

追いかけていた目標がかなう確証などなかった。もしかすると、二度目の大学受験に費やしたこの1年は、丸ごと無駄になってしまうかもしれない。やめておけばいいのにと言われたこともあったし、そもそも相談する相手もいなかったから日々は孤独だった。

青くさい意地のようなものだったのか、18歳の自分はこの手でおのれの人生の扉をこじ開ける生々しい感触を味わってみたかった。

夢中でペダルをこぎ、その勢いで夢ごと若い体を前に進めようとしていた。もう20年近く昔のことだ。時の流れの速さに目眩がする。

通りを歩いている女性
写真=iStock.com/monzenmachi
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