「好きなこと」や「得意なこと」は言い訳がきかない。私はそれが苦手だから、本気ではやっていないから、と逃げることはできない。

自分が最も戦いやすい場所で負けることの敗北感は大きい。

それでもやり続けられるか

自分のアイデンティティーそのものだと思っていたことが厳しい評価を受けたとき、人は全人格を否定されたような感覚に陥りやすい。

水野良樹『犬は歌わないけれど』(新潮社)
水野良樹『犬は歌わないけれど』(新潮社)

「好きなこと」を仕事にすることは、それがあなたにとって大切なものであればあるほど、自分の存在自体を評価に晒すことと限りなく近くなっていく。

あなたは、あなたの人生そのものを世間の評価に晒すことになるのだ。

それは思っているよりも過酷だ。しかも、追い打ちをかけるようだが、世の中には「好き」の度合いが尋常ではない傑物がごろごろいる。自分の「好き」は生易しく半端なものであると思い知らされる瞬間が何度も訪れる。

だが、言い逃れはできない。くじけてはならない。あくまで「仕事」にしたいのなら、彼ら天才とも他者の評価を奪い合わなくてはならない。

「やり続けられるか?」と問われて、それでも足を踏み入れてしまう人がたくさんいる。その覚悟は肯定したい。自分もその一人だからだ。

一つだけ良いことを最後に記しておく。悔いは残らない。

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